学生のための論文・レポートの書き方:研究テーマの見つけ方(その2)
以前に、「学生のための論文・レポートの書き方:研究テーマの見つけ方」という記事を書きました。
簡単にまとめると、次の5ステップを踏むことで研究テーマが見つかるという記事です。
- インターネットで興味のあることを見つける
- 同じ分野の学術論文や書籍にたくさん目を通す
- 興味が引かれた「少数精鋭」論文を読み込む
- 「まだ分かっていないこと」を見つける
- 自分だけのテーマにアレンジする
そのなかで、5番目のステップについて次のように説明しました。
5. 自分だけのテーマにアレンジする
自分が興味のある分野の最前線を知り、まだ誰も調べていないテーマが何となくでも分かれば、あとは先行研究に少しだけアレンジを加えて自分だけの研究テーマを作ります。例えば、研究対象を変えたり、実験方法を変えたり、従来とは逆の仮説を大胆に立ててみたり、アレンジ(新規性)の加え方は無限にあると言ってもいいでしょう。
今回の記事では、「少しだけアレンジを加えて」というところを深掘りして、具体的にどうやってアレンジを加えるのかについてまとめてみます。
① 知見の不一致に着目する
自分が興味のある分野について研究論文を複数読んでいくと、同じような実験や調査をしているのに結果が一致していないのに気付くことがあります。そういう事例を見つけたら、その不一致は何年頃に見られたのか、最新の見解では一致しているのか、論文の出版年に注目しながら調べてみます。
もし、最近の研究でも見解が一致していないのであれば、その点を研究テーマにすることができます。一致していない理由について自分なりの仮説を立て、それを検証するための研究を行なっていきます。
② 未知の対象に着目する
先行研究で扱われている調査対象・実験対象に注目し、それを自分が興味のある対象や重要度の高い対象に変えてみます。
例えば、ある植物種とそこに生息する微生物の関係について先行研究で調査されていたとすれば、植物の種類を身近なものや近年話題になっているものに変えてみることを考えます。
対象は無数にありますから、なぜその対象を選ぶのか、明確な理由を考えながら新たな対象を見つけます。
③ 未知の場所・時に着目する
調査や実験の対象だけでなく、研究する場所や時期なども広義の対象と考え、自分なりに変えてみることができます。
例えば、ヨーロッパで行われた調査の結果が興味深いと思ったのであれば、それと同じような調査を日本で行うことはできないかと考えます。研究の場所を変えてみるということです。
もう一例を挙げると、日本人のある行動パターンを調査した研究があったとして、もしそれが夏に行われたものであれば、冬はどうなのかと考えてみます。研究を行う時期や時間帯を変えてみるということです。
④ 方法を改良する
研究方法に注目し、従来よりも優れた方法を模索するのも良いでしょう。これは特に実験系の研究では日常的に行われています。
例えば、原料からある化学物質を得るための化学反応について、先行研究では原料の90%を有効に使うことができたとします(回収率90%)。回収率を上げるという目的を設定し、実験の条件や方法を変えてみることにすれば、先行研究から一歩進んだ自分だけの研究になります。
⑤ 実践的・実用的な研究に発展させる
基礎研究の知見を使って、実践的・実用的な研究に発展させられないか考えてみます。
例えば、以前の記事で「副詞の位置」について研究した論文を取り上げましたが、そこでは次のような文の中から最も読みやすい副詞の位置はどこなのか評価していました。
(a) 先週健二が卒論を提出した。
(b) 健二が先週卒論を提出した。
(c) 健二が卒論を先週提出した。
これらの文は、一般的な日本人が書いたり話したりする文に比べると簡単で短く、少し現実的ではない、いわば基礎研究とも言えます。研究結果を実践的な場面に適用しようとするなら、もっと長くて複雑な文を使ってテストしてみるというアイデアが浮かびます。
まとめ
先行研究をアレンジして自分の研究テーマを見つける5つのパターンをご紹介しました。
- 知見の不一致に着目する
- 未知の対象に着目する
- 未知の場所・時に着目する
- 方法を改良する
- 実践的・実用的な研究に発展させる
このように考えていくと、学生でも研究テーマは結構簡単に見つけられると思いますが、もちろん闇雲に先行研究をちょっといじれば良いわけではありません。大切なのは、先行研究にアレンジを加えることがなぜ必要なのか、それによってどういうメリットや進歩がもたらされるのか考えてみることです。必要性や重要性がしっかりと説明できるのであれば、それはきっと良い研究テーマになるでしょう。
<参考文献>
『よくわかる卒論の書き方』白井・高橋、2013年、ミネルヴァ書房
この記事を書いた人
田中泰章 博士
Yasuaki Tanaka Ph.D.
プロフィール
環境問題や教育制度などについて広い視点から考える自然科学者。2008年に東京大学大学院で博士号(環境学)を取得した後、東京大学、琉球大学、米国オハイオ州立大学、ブルネイ大学など、国内外の大学で研究と教育に約15年間携わってきました。これまでに30報以上の学術論文を筆頭著者として執筆し、国際的な科学雑誌の査読者として多数の論文審査も行っています。
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