日本語論文の校正・添削:一文の長さは100字以内
論文の読みやすさ・分かりやすさを大きく左右する要因の一つとして、「一文の長さ」が挙げられます。今回の記事では、「一文の長さはどれくらいが良いか」ということについて触れてみたいと思います。
一般的な「一文の長さ」の目安
まずは文の長さについて、さまざまな作家・文章家の指摘を見てみましょう。
- いまの日本語では、40字〜50字ぐらいが標準である。(外山滋比古『文章を書くこころ』)
- 文の長さは個人差があります。自分の呼吸にあった長さを工夫するのがいちばんですが、平明な文章を志す場合は、より長い文よりも、より短い文を心がけたほうがいい。/私は、新聞の短評を書いていたころ、文の長さの目安を平均で30字か35字というところに置いていました。(辰濃和男『文章の書き方』)
- 新聞記者は訓練の期間中に「(一つのセンテンスが)五行以上は悪文だ。絶対に書くんじゃない」といわれる。/新聞社によってちがうが一行は13字から15字である。(石川真澄『うまい!といわれる短い文章のコツ』)
- 一般に一文は80字から100字を超えたら長い。(古郡廷治『文章添削トレーニング』)
- 一センテンスの長さは、40字〜50字以下になるようにつとめるべきである。一行20字づめの原稿用紙で、二行または三行に一つ程度は、マル(句点「。」)が入るようにすべきである。(安本美典『説得の文章技術』)
- センテンスの長さの基準として、平均40字以下と考えるのがよいでしょう。(藤沢晃治『「分かりやすい文章」の技術』)
- とくに根拠はないけれど、個人的な印象では、だいたい80字以内に収めれば、よいと思う。(更科功『理系の文章術』)
1センテンスの長さ
1センテンス40字〜50字以下をメドにする。80字だと長すぎる。
『わかりやすい文章の書き方』内田治、2023年、一部改変
一般的な読者を想定した文章、たとえば新聞や大衆向けの雑誌・記事などでは、「一文は40字〜50字以下」というのが目安になっていると言えます。実際に書いてみると分かりますが、人によっては40字〜50字というのは結構短いと感じるかもしれません(←この文が47字)。
文の長さの個人差
文の長さには個人差や年齢差があり、それについては次のようにまとめられています。
文の長さには個人差がある。
『わかりやすい文章の書き方』内田治、2023年、一部改変
- 「肥った人は短いセンテンスを好み、痩せている人は長いセンテンスを書く−これが文章の生理説?である。(中略)呼吸の速さは文章のテンポにも影響するという考え方である」という。(外山滋比古『文章を書くこころ』)
- 人間は、子供のときは短文を書き、成長するにしたがって長い文を書くようになるもののようだ。
- 作家などのばあいは「血気さかんな青年期には、ダイナミックな文体を綴るに短いセンテンスを以てし、反対に老年期に於ては、センテンスも次第に内省的に、ゆるやかな長い波を持つようになる」(川端康成『新文章読本』)とか。
一点目の「文章の生理説?」は本当かどうか分かりませんが、興味深い指摘だと思いました(何かそれに関連するデータや資料をお持ちの方がいらっしゃいましたら、ぜひ教えてください)。
二点目は非常に納得できる指摘だと思います。成長するにつれて、書けることや書きたいことが増えてくるので、次第に長い文章を書くようになるということです。
論文では、一文はもう少し長い
一般的な読者を想定した文章では、「一文は40字〜50字以下」というのが目安になっているようですが、論文や研究レポートのような学術的な文章では、もう少し長くなる傾向があります。
日本教育工学会の雑誌に掲載された論文を紹介します。
「論文等における文の長さの検討」(清水康敬、日本教育工学雑誌、1997年)
この論文では、同雑誌に掲載された論文23編とショートレター23編、朝日新聞の社説と天声人語に掲載された記事(それぞれ117記事および58記事)を対象にして、一文の長さや文節の数などが比較されています。
その結果、一文の文字数が最も短いのは天声人語(平均27.9字)で、次に長いのが社説(平均44.5字)、最も長かったのが論文(平均57.5字)とショートレター(平均56.9字)でした。統計解析すると、論文とショートレターの間に有意な差はありませんでしたが、これらの記事中の文は、新聞記事(社説と天声人語)の中の文よりも有意に長いという結果でした。また、文節の数についても同様の結果が得られています。
これらの結果から、「(論文やショートレターを)新聞記事並の読みやすさにするためには、文を短くする努力をする必要がある」というのが著者の結論でした。
私自身は、論文を新聞記事並に短くすることは技術的にも難しいですし、そこまで短くする必要もないと思っています。上述したように、「子供のときは短文を書き、成長するにしたがって長い文を書くようになる」ことを踏まえると、論文のような専門的な文が一般向けの文よりも長くなってしまうのは仕方がないと思うからです。長い文が良いと言っているわけではなく、長くせざるを得ないことがあるという意味です。
以上のようなことを考えると、論文では60字〜80字くらいは許容範囲、80字〜100字くらいが上限ではないかと思います。特に根拠があるわけではなく、あくまで個人的な印象です。
短い文を書くコツ
最後に短い文を書くコツをご紹介しておきます。本記事の最初にご紹介した文献からの引用です。
短いセンテンスを書くコツ
『わかりやすい文章の書き方』内田治、2023年、一部改変
- 中止法(「・・・し、・・・し、」で文をつないでいく方法を多用しない。
- 一文一義を心がける。
- 助詞の「が」に注意する。
- 「が」でつながるセンテンスを句点「。」と「しかし」で二つに分割する。
- 逆接の「が」を使うときは、「句点」+「しかし」でつなぐ。
- 順接の「が」は捨てて、センテンスを二分する。
- 不必要な修飾語は使わない。
- 外国語の文脈を日本語にそのまま移さない。
上記はいずれも、一般向けの文章だけでなく、論文でも使えるコツだと思います。
簡潔な文章を書くポイントも一緒にまとめてありましたので、引用しておきます。
簡潔な文の書き方
『わかりやすい文章の書き方』内田治、2023年、一部改変
- 文はできるだけ短く。
- 一つの文には一つの事柄だけを入れる(一文一義)。
- 一つの文が長い場合は、二つか三つの文に分ける。
- 不要な部分を削る。
- 一つの文の中で同じ意味の言葉を重複して使わない。
- 同音の語句を一つの文で繰り返さない。
- 2、3行の間に同じ言葉を続けて使わない。
- 同じ意味の文を繰り返さない。
- 不要な修飾語を使わない。
- 接続詞はできるだけ省く。
- 指示語は削る。
- 副詞を避ける。
- 省略できる主語は省略する。
- 意味が重複する言葉は簡単に表現する。
5〜7のあたりは論文では難しい場面もありますが、それ以外のコツは論文でも使えると思います。
まとめ
今回の記事では、論文を書いたり推敲したりするときに、「一文の長さはどれくらいが良いか」というテーマについて書いてみました。論文のような専門的な文章は、一般向けの文章よりも多少長くなる傾向がありますが、それでも「80字〜100字くらいが上限」というのが私の印象です。
一文の長さは誰でも簡単にチェックできます。論文の原稿を推敲・添削しながら、「ちょっと一文が長いかな」と思ったときは、これくらいの文字数を目安にしてみてください。

この記事を書いた人
田中泰章 博士
Yasuaki Tanaka Ph.D.
プロフィール
環境問題や教育制度などについて広い視点から考える自然科学者。2008年に東京大学大学院で博士号(環境学)を取得した後、東京大学、琉球大学、米国オハイオ州立大学、ブルネイ大学など、国内外の大学で研究と教育に約15年間携わってきました。これまでに30報以上の学術論文を筆頭著者として執筆し、国際的な科学雑誌の査読者として多数の論文審査も行っています。
アカデミックラウンジでは、論文添削や日本語校正、統計解析などのご依頼・ご相談を承っております。
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