読みやすい論文・レポートを書くために:主語と述語を確認する

論文やレポートを書いて仕上げる段階では、読者にとって読みやすい文章になっているかどうかを考えながら推敲します。以前の記事では、推敲のポイントを10個まとめてみました。

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今回の記事では、そのうちの一つ「主語と述語を対応させる」ということについて、もう少し詳しく見ていきたいと思います。記事のタイトルは「読みやすい論文・レポートを書くために」ですが、もちろん一般的な記事にも当てはまる内容ですので、文章を推敲されている方は参考にしてみてください。

①主語は何か?

文章を推敲するときにまず注目したいのは、「その文の主語は何か」ということです。自分は主語が何か分かっているつもりでも、読者にとっては分かりにくいこともありますので、自分が書いた文章を読者の視点に立って読んでみましょう。

「読者の視点に立って」というのは、頭の中を真っ白にして、その文章を初めて読む人の視点に立って、ということです。読者の視点に立つためには、文章を書いた後、一日か二日ほど間を空けて、文章を「寝かせてから」読み返すのが効果的です。これは主語を確認するためだけでなく、あらゆる推敲の基本ですので、時間がある方はぜひ試してみてください。

主語を確認する方法は難しくなく、述語を確認してからそれに対応する主語を探します(慣れてくると、主語と述語のペアが瞬時に見えるようになります)。日本語では、述語は通常文末に置かれますので、その述語に対応する主語が何なのか探せば良いわけです。例えば、「述べた」という述語が文末にあるなら、「誰が」述べたのかという主語が文のどこかにあるはずです。

論文やレポートなどの学術的な文章では、「私」「私たち」のような一人称主語を使わないことが多いので、文の主語が分かりにくくなりがちです。次の項目で紹介するように、主語を省略して良い場合もありますが、基本的には主語を省略しないほうが読者は文意を理解しやすいので、まずは「この文の主語は何?」と考えてみましょう。

②主語を省略しても良いとき

日本語では、主語を省略することもよくあります。特に会話では、話している人たちの間でお互いに主語が何なのか分かっていれば、毎回主語を口に出す必要はありません。例えば、「今はこの人について話をしている」と会話している人たち全員が分かっていれば、毎回「Aさんは・・・」「Aさんは・・・」とは言いませんよね。

しかし文章では、著者と読者の間で主語を共有することは会話に比べて難しいため、主語を省略するときは気を付けなければいけません。論文やレポートで主語を省略しても良いのは、主に次の二つの場合でしょう。

主語が前文と同じとき

例)鈴木(2023)は、・・・・について調べた。その結果、・・・と結論づけた。

文が変わって主語も変わるときは、主語を省略することはできません。

主語が「人々」や「読者」のとき

例)このデータから、日本の森林が減少していることが分かる。

論文で研究結果を説明するときによく用いられる表現です。この場合、主語は論文の著者とも言えますが、読者全体と捉えることもできます。

③主語と述語は近くに置く

文に主語がある場合、主語と述語はなるべく近くに置くのが基本です。主語と述語が離れれば離れるほど、読者は頭の中で主語と述語を対応させるのが難しくなるので、文意を理解しにくくなるためです。

主語と述語が離れている例

鈴木(2023)は、2011年から2020年の10年間に比べて、2021年はA地区で野生動物(イノシシ・シカ・サル・クマ)による農作物の被害が多かったことから、住民に聞き取り調査を行った。

主語と述語を近づけた場合

2010年から2020年の10年間に比べて、2021年はA地区で野生動物(イノシシ・シカ・サル・クマ)による農作物の被害が多かったことから、鈴木(2023)は住民に聞き取り調査を行った。

論文やレポートでは、先行研究を紹介することが頻繁にあります。そういうときに主語である論文の著者を文頭に置くと、述語までの文字数が多くなって主語と述語が離れてしまいがちです。主語は必ずしも文頭に置かなくても良いので、述語の近くに置けないか考えてみましょう。

また、論文の著者は必ずしも主語にする必要はなく、次のように文末にカッコ書きで示すことも可能です。ただし、上の例とは若干ニュアンスが変わり、著者が強調されなくなります。

著者を書かない場合

2010年から2020年の10年間に比べて、2021年はA地区で野生動物(イノシシ・シカ・サル・クマ)による農作物の被害が多かったことから、住民に対して聞き取り調査が行われた(鈴木 2023)。

④主語と述語のねじれをなくす

論文やレポートなどの専門的な文章では一文がついつい長くなってしまいがちで、その結果、主語と述語がうまく対応していない文になることがあります。

主語と述語がねじれた文

今回の実験が前回と異なるのは、水分を除くため、サンプルを事前に60度で5時間乾燥させた。

改善例

今回の実験が前回と異なるのは、水分を除くため、サンプルを事前に60度で5時間乾燥させたことだ。

元の文の主語は「異なるのは」です。「のは」の「の」は、「〜(の)こと」「〜(の)もの」を表すため、文末の述語を「〜ことだ」にすると、主語とうまく対応します。

主語と述語のねじれをチェックする方法は、主語と述語だけで文を読んでみることです。主語が文頭に置かれている場合は、文の中間部分を省略し、文頭と文末だけをつなげて読んでみます。上の例だと、元の文では「前回と異なるのは、5時間乾燥させた」となり違和感がありますが、改善後の文では「前回と異なるのは、5時間乾燥させたことだ」となり、主語と述語がうまく対応していることが分かります。

まとめ

以上が主語と述語を確認するときの4つのポイントでした。

  • 主語は何か?
  • 主語を省略しても良いとき
  • 主語と述語は近くに置く
  • 主語と述語のねじれをなくす

これらを確認・改善するだけで、文章の読みやすさは格段にアップしますので、推敲するときはぜひ文の主語と述語に注目してみてください。

この記事を書いた人

田中泰章 博士

Yasuaki Tanaka Ph.D.

プロフィール
環境問題や教育制度などについて広い視点から考える自然科学者。2008年に東京大学大学院で博士号(環境学)を取得した後、東京大学、琉球大学、米国オハイオ州立大学、ブルネイ大学など、国内外の大学で研究と教育に約15年間携わってきました。これまでに30報以上の学術論文を筆頭著者として執筆し、国際的な科学雑誌の査読者として多数の論文審査も行っています。

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