論文・レポートの書き方:考察

前回の記事では、「研究結果」の書き方についてコツや注意点を解説しました。今回の記事では、「考察」の書き方についてまとめてみたいと思います。

①結果を解釈する

得られた結果に短く言及し、その意味を解釈します。結果に短く言及するのは、数ある結果のどの部分を指しているかを示すためなので、「結果」の節で説明したことを長々と繰り返す必要はありません。

例えば、結果として数値Aと数値Bの間に正の相関関係が見られたとすると、次のような考察パターンを考えることができます。

考察例:結果の解釈

数値Aと数値Bの間には正の相関関係が見られた(図1)。これは数値Aが数値Bに大きな影響を与えていることを示唆する。・・・というメカニズムが働いたと考えられる。

最初の一文で結果に短く言及し、二文目で結果の意味を解釈し、三文目でその原因を推測しています。

ここで取り上げた相関関係というのは、あくまで関連性があるというだけで、因果関係を表しているわけではありません。一文目では相関関係という結果(事実)を示し、二文目で「数値Aが原因で数値Bが増えているのではないか」と因果関係を推測しているわけです。

結果に言及するときは、図や表の番号に言及することをおすすめします。図・表に言及されていないと、読者は「結果」のどこを見ればそれが分かるのかすぐに理解できず、「結果」の中の図・表から該当箇所をいちいち自分で探さないといけないからです。そのような考察は読みにくく、読者の理解度も下がってしまいます。

そうやって図や表に言及しながら考察を書き進めていくわけですが、「考察」を書き終えたときに、「結果」に示したすべての図・表に言及されていることも大切です。なぜなら、「考察」で言及されないような図・表はそれほど重要ではないということなので、そもそも「結果」に載せる必要はないからです。自分が厳選した結果の図・表ですから、「考察」ではそれらすべてに言及するようにしましょう。

②自分の解釈の妥当性を主張する

自分の推察や主張を展開していくときには、それをサポートしてくれるような先行研究を紹介します。

考察例:自分の解釈の妥当性を主張

数値Aと数値Bの間には正の相関関係が見られた(図1)。これは数値Aが数値Bに大きな影響を与えていることを示唆する。・・・というメカニズムが働いたと考えられる。このメカニズムが働くためにはXとYの条件が必要だが(参考文献1)、本研究はその両方の条件を満たしている(表1)。

自分の推察を補強するために、参考文献を入れています。

同じような結果を出している文献を紹介し、自分の結果が突拍子のないものではなく、十分に起こりうるものだと主張すると、次のように展開することもできます。

考察例:自分の解釈の妥当性を主張

数値Aと数値Bの間には正の相関関係が見られた(図1)。これは数値Aが数値Bに大きな影響を与えていることを示唆する。・・・というメカニズムが働いたと考えられる。このメカニズムが働くためにはXとYの条件が必要だが(参考文献1)、本研究はその両方の条件を満たしている(表1)。同様の結果は、A種・B種・C種でも報告されており(参考文献2)、少なくともこれらの種では同じメカニズムが機能している可能性がある。

考察というのは自分の見方・考え方なので、「〜を示唆する」「〜と考えられる」「〜と思われる」「〜の可能性がある」「〜かもしれない」「〜が期待できる」など、推測しているような表現が多く使われがちです。

しかしながら、このような表現はあってもなくても文意はほとんど変わらず、筆者の「自信のなさ」を表しているとも言えるので注意が必要です。多用しすぎると、読者に「回りくどい」「はっきりしない」といったネガティブな印象を与えてしまいます。

この辺りは考察の書き方というよりも日本語の文章術になってきますので、別の記事にまとめたいと思いますが、「〜と考えられる」や「〜と思われる」を使いすぎないように気を付けましょう。

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別の見方や可能性、異なる結果などにも言及する

文献を引用しながら自分の推測や主張を補強していくことは大切ですが、別の見方や可能性、異なる結果を示している研究例などに言及することも重要です。読者からすれば、「どうせ自分に都合の良い研究例だけを集めてきて、話を作ってるんでしょ」と思ってしまうのは当然なので、仮に自分のなかで結論は決まっていたとしても、少しはそういう読者の懸念に向き合う必要があるのです。

前述の例文の続きとして、他の可能性や異なる結果の研究例を紹介するパターンを書いてみます。

考察例:別の見方・可能性に言及

・・・というメカニズムを提唱したが、〜という可能性もある。しかしながら、−−−であることを考えると、〜の可能性は極めて低い。

考察例:異なる結果に言及

本研究と異なり、(参考文献3)の研究では、数値Aと数値Bの間に有意な正の相関関係は見られなかった。しかしながら、(参考文献3)では===だったという条件を考えると、本研究結果のほうが実際の現象を上手く捉えていると言えるだろう。

このように、他の可能性や異なる結果の研究例を示すものの、最終的には自分の主張や推察が正しいとする方向に論理を持っていくことが重要です。他の可能性を大きく取り上げすぎると、自分の主張や推察が非常に弱く見えてしまうからです。

「目的」に解答する

「考察」の中で、結果を解釈するのも自分の主張や推察を展開するのも、すべては「序論」で設定した目的、特に「小さな目的」に解答するためです。「小さな目的」とは、序論で提起した問題を解決するための具体策でした。この具体策を実行し、その結果を伝えるために論文・レポートを書いているわけですから、当初の目的とは関係のない考察をいくら展開しても、有意義な考察とは言えません。自分が書いている論文やレポートの目的を常に意識しながら、考察の流れを考えましょう。

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①から③で解説したような議論の流れを経て、自分の推察や主張が確からしいことを十分に説明できたら、そのまとめとして最初に設定した「小さな目的」に解答します。

例えば、次のような「目的から考察までの流れ」を作ることができます。

目的から考察までの流れ

序論で設定した「小さな目的」

数値Aの変動が数値Bに影響を与えているかどうかを評価する。

考察①結果を解釈する

数値Aと数値Bの間には正の相関関係が見られた(図1)。これは数値Aが数値Bに大きな影響を与えていることを示唆する。・・・というメカニズムが働いたと考えられる。

考察②解釈の妥当性を主張する

このメカニズムが働くためにはXとYの条件が必要だが(参考文献1)、本研究はその両方の条件を満たしている(表1)。同様の結果は、A種・B種・C種でも報告されており(参考文献2)、少なくともこれらの種では同じメカニズムが機能している可能性がある。

考察③別の見方や可能性を探る

・・・というメカニズムを提唱したが、〜という可能性もある。しかしながら、−−−であることを考えると、〜の可能性は極めて低い。

本研究と異なり、(参考文献3)の研究では、数値Aと数値Bの間に有意な正の相関関係は見られなかった。しかしながら、(参考文献3)では===だったという条件を考えると、本研究結果のほうが実際の現象を上手く捉えていると言えるだろう。

考察④「小さな目的」に解答する

以上から、数値Aの変動が数値Bに影響を与えている可能性は非常に高い。

「小さな目的」が複数ある場合は、①〜④を繰り返す

序論で「小さな目的」を一つだけ設定した場合は、以上が主な考察の流れになります。「小さな目的」を二つ以上設定した場合は、①〜④の流れを繰り返します。もちろん、①〜④の一連の流れのなかで二つ以上の「小さな目的」に解答できる場合は、それでも構わないでしょう。しかし、「小さな目的」というのは通常「何かを明らかにする」というような一つの「ミニテーマ」であることが多いので、そのミニテーマごとに分けて考察を組み立てた方が、読者にとっては分かりやすいでしょう。

まとめ

以上をまとめると、次のようになります。

  1. 結果を解釈する
  2. 解釈の妥当性を主張する
  3. 別の見方や可能性を探る
  4. 「小さな目的」に解答する
  5. 「小さな目的」ごとに①から④を繰り返す

ただし、①から④の順番については決まったルールがあるわけではないので、読者にとって読みやすいように配置を入れ替えたり混ぜ合わせたりして、考察を組み立てていけば良いでしょう。特に、④は「考察」の冒頭に置くこともできます。最初に結論を示したうえで、そこに至った経緯や根拠を書いていくという流れになります。この辺りは書き手の好みでもあるので、自分が書いた考察を繰り返し読みながら決めると良いでしょう。

次回は「結論」の書き方についてまとめたいと思います。

<参考文献>

『これで書ける!理系作文の鉄則46』斎藤恭一、2023年、化学同人

この記事を書いた人

田中泰章 博士

Yasuaki Tanaka Ph.D.

プロフィール
環境問題や教育制度などについて広い視点から考える自然科学者。2008年に東京大学大学院で博士号(環境学)を取得した後、東京大学、琉球大学、米国オハイオ州立大学、ブルネイ大学など、国内外の大学で研究と教育に約15年間携わってきました。これまでに30報以上の学術論文を筆頭著者として執筆し、国際的な科学雑誌の査読者として多数の論文審査も行っています。

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