論文・レポートの書き方:序論

前回までの記事では、論文・レポートの「テーマの見つけ方」や「基本的な構成」について解説してきました。今回の記事からは、項目ごとに具体的な書き方をまとめていきたいと思います。

序論とは?

前回の記事では、論文やレポートの前半には「導入」や「目的」を説明すると書きましたが、この二つをまとめて「序論」と呼ぶことがあります。それに対する「本論」は、「序論」以降に続く「方法」や「結果」、「考察」などです。「序論」と書いてしまうと意味が伝わりにくいので、前回は「導入」と「目的」と分けて書きましたが、これら二つは非常に密接に関係していて、常にセットで考える必要があります。

「導入」+「目的」=「序論」

「序論」と呼んでいますが、序論は単に文書の入口を示すだけではありません。実は文書の全体像を示す非常に重要な場所で、読者は序論を読むだけでその論文やレポートが面白そうかどうかを判断します。学生にとっては、レポートの得点や論文の合格・不合格を左右する重要な項目でもあります。

序論は主に次のような内容で構成されています。

  1. 書き出し:読者に背景や基礎知識を提供する
  2. 問題を提起する・疑問を呈する
  3. 問題を解決する方法(小さな目的)を提案する
  4. 仮説を述べる
  5. 問題を解決することの重要性(大きな目的)を訴える

書き出し:読者に背景や基礎知識を提供する

最初の段落では、そのテーマに関する基本的な事柄を読者に説明します。それには二つの目的があり、一つはこれから書こうとしている論文やレポートのテーマについて興味を持ってもらうこと、もう一つはそのテーマに関する基礎知識を持ってもらうことです。読み始めて最初の段落が、面白いと思えなかったり難しすぎたりすると、読者は興味を失い、読むのをやめてしまいます。学校の課題であれば、採点のため教員は最後まで読んでくれるかもしれませんが、書き出しの内容が論文やレポート全体の印象に影響を与えることは確かでしょう。

書き出しのパターンにはいくつかありますが、分かりやすくまとめられている書籍があったのでご紹介します。

書き出しパターン① 実際にあった象徴的な出来事

PRキャラクターながら熊本県庁で非常勤職員から営業部長に抜てきされた「くまモン」が、営業部長代理に降格された。知事に申し渡された「ダイエット作戦」に失敗したための“懲戒”処分である。(以下略)

書き出しパターン② 重要概念の定義

「くまモン」とは、2011年の九州新幹線全線開業を盛り上げるために誕生した熊本県のPR

キャラクターである。全国に数千といわれるご当地キャラクターがいる中で、「くまモン」は人気、経済効果の面から見ても代表的な存在として注目を集める。(以下略)

書き出しパターン③ 伝えようとする事柄の背景

「ゆるキャラ」という名称には3つの条件があるとされる。すなわち、①郷土愛に満ち溢れた強いメッセージ性、②立ち居振る舞いが不安定かつユニーク、③愛すべきゆるさである。(以下略)

書き出しパターン④ 興味を引く数字

熊本県のPRキャラクター「くまモン」のデザインを利用した商品の売り上げが2014年は643億2200万円に達した。前年比43.1%増という伸びは、「くまモン」人気が依然高いことを示している。(以下略)

書き出しパターン⑤ 著名な人の著書や発言の引用、箴言

「広告はモノを擬似イベントに仕立て上げる」。現代社会を消費社会という概念で分析したボードリヤールは、広告の効果についてこのような言説を残している(ボードリヤール, 1995)。(以下略)

書き出しパターン⑥ 意表を突いた記述

一度きりのイベントで消えるはずのキャラクターだった。それが、いまや熊本県の「顔」となり、その名は国内だけでなく海外にまで知られるようになった。(以下略)

書き出しパターン⑦ 答える必要のない漠然とした問いかけ

「くまモン」人気はいつまで続くのだろう。2010年に誕生した熊本県のご当地キャラクターは、翌年「全国ゆるキャラグランプリ」で頂点に立つと、その人気を全国区とした。(以下略)

〈改訂版〉大学生のための 論文・レポートの論理的な書き方(渡邊淳子、2022年)

以上が書き出しに使える7つのパターンになります。

書き出しの段落は一つとは限らず、足りなければ複数の段落を作っても良いでしょう。

問題を提起する・疑問を呈する

書き出しとして背景や基礎知識を説明した後は、自分のテーマに誘導するように、その分野が抱えている問題や疑問を提起していきます。以前の記事「テーマの見つけ方」で解説したように、「まだ分かっていなこと」を論文やレポートのテーマに設定しているはずなので、その「分かっていないこと」を問題・疑問として取り上げていくわけです。

前述のくまモンについての書き出しを参考にして、論文のテーマと背景説明、そして問題提起の簡単な例です。

  • テーマ「くまモンはなぜ人気が高いのか?」
  • 書き出しの段落・背景説明:くまモンの経済効果や関連商品の売上高について説明
  • 問題提起「くまモンの人気が高い理由は分かっていない」

問題を解決する方法(小さな目的)を提案する

問題を提起したら、その問題を解決するためにしなければならないことを具体的に提案します。といっても、実際には調査や実験を行ってから論文・レポートを書いているはずなので、すでに実行したことを書くことになります。すでに自分が行った調査や実験が、提起されている問題の解決方法となるように、両者をすり合わせるわけです。問題の解決策を実行することが、論文やレポートを書く「目的」となります。

ただし、後述するように、論文やレポートを書くのはさらに大きな目的を達成するためでもあります。そこで本記事では、問題を解決する具体的な方法のことを「小さな目的」と呼びます。

前述のくまモンの例で言えば、「くまモンの人気が高い理由は分かっていない」という問題があるので、どうすればその問題を解決できるのかを説明します。例えば、アンケート調査を行なって、くまモンのどういうところが好きか調べるという解決方法を思いついたとしましょう。くまモンの名前や顔、大きさ、色など、良いと思う部分は人によって違うでしょうし、回答者の年齢によっても見方が変わってくるかもしれません。その場合、次のような解決方法を提案することができます。

  • テーマ「くまモンはなぜ人気が高いのか?」
  • 書き出しの段落・背景説明:くまモンの経済効果や関連商品の売上高について説明
  • 問題提起「くまモンの人気が高い理由は分かっていない」
  • 問題の解決方法(小さな目的):「アンケート調査を行い、くまモンの人気ポイントを年齢層別に解析する」

もちろんこれは例なので簡単に書きましたが、実際の論文・レポートでは、もっと詳細に自分が行おうとしていること(実際にはすでに行なったこと)について記述します。

仮説を述べる

可能であれば、自分が立てている仮説について説明すると良いでしょう。自分が提案する解決方法を実行した時に、どういう結果が予想されるのか、理由を付けて説明します。

学術的な文章なので、単に「こういう結果になると思う」と言うだけではなく、読者を思わずうなずかせるような理由を付けることがポイントです。先行研究をうまく使いながら、読者をあなたの仮説に誘導し、「たしかにそういう結果になるかもしれない」と読者に思わせることができれば、仮説としては成功です。

もちろん読者の中には違う仮説を抱く人もいるでしょうが、それは構いません。「いやいや、そういう結果にはならないでしょう」と思いながら、読み進めてくれるからです。大切なのは仮説が正しいかどうかではなく、あなたが作った一連の「ストーリー(物語)」が面白いかどうかなのです。

問題を解決することの重要性(大きな目的)を訴える

問題を提起し、それを解決するための方法(小さな目的)や予想される結果(仮説)を提案したら、最後にその問題を解決することの重要性を訴えましょう。なぜその問題を解決する必要があるのか、それを解決することによってどんな良いことがあるのかを説明します。前述の「小さな目的」に対して、この重要性のことを本記事では「大きな目的」と呼びます。

単に、「まだ誰も調べたことがないから調べる」とか、「興味があるから知りたい」というだけでは、研究の意義としては非常に弱いものになってしまいます。この世の中に分からないことは無数にありますし、個人的な興味は十人十色だからです。たとえ、最初はそういう理由でテーマを決めたり研究を始めたりしたとしても、実際に論文やレポートを書く段階では、その意義や必要性をしっかり説明しましょう。

そのとき参考になるのは、テーマを決めるときに読み込んだ、自分にとっての「少数精鋭」論文です。それらの論文の「序論」を読み返してみましょう。自分のテーマと同じようなテーマについて書かれた論文ですから、問題を解決する意義や必要性もきっと似ているはずです。

どんなに些細なテーマでも、さまざまな観点から眺めることによって、大きな意義が見えてきます。例えば、社会・文化的な価値や、経済的な効果、科学技術の進展、歴史の修正などです。このような大きな視点から見た意義こそが、論文やレポートを書く「大きな目的」となります。

まとめ

以上が序論の書き方でした。もう一度まとめると、次のようになります。

  1. 書き出し:読者に背景や基礎知識を提供する
  2. 問題を提起する・疑問を呈する
  3. 問題を解決する方法(小さな目的)を提案する
  4. 仮説を述べる
  5. 問題を解決することの重要性(大きな目的)を訴える

本記事では、「大きな目的」(意義や重要性)を最後に入れましたが、書き方によっては2番目の「問題提起」の後や、3番目の「小さな目的」の後に入れることもできます。1〜5の順番については特定のルールがあるわけではないので、自分の書いたストーリーを繰り返し読みながら、話の流れがスムーズになるように調整していきましょう。

この記事を書いた人

田中泰章 博士

Yasuaki Tanaka Ph.D.

プロフィール
環境問題や教育制度などについて広い視点から考える自然科学者。2008年に東京大学大学院で博士号(環境学)を取得した後、東京大学、琉球大学、米国オハイオ州立大学、ブルネイ大学など、国内外の大学で研究と教育に約15年間携わってきました。これまでに30報以上の学術論文を筆頭著者として執筆し、国際的な科学雑誌の査読者として多数の論文審査も行っています。