読みやすい論文・レポートを書くための日本語文章術 5選

研究論文やレポートのような学術的な(アカデミックな)文章は、内容が難しく複雑な場合が多いため、読者にとっては一般的な文章よりも読みにくくなってしまいがちです。せっかく書いた論文やレポートでも、読みにくいと内容が伝わらないばかりか、そもそも興味を持ってもらえないということにもなりかねません。学生であれば、「読みにくい」という理由だけで、論文やレポートの点数を下げられることもあるでしょう。

今回の記事では、読みやすい論文・レポートを書くための5つのコツをまとめてみました。これらは一般的な文章を書くときにも使えるコツですので、報告書をまとめている会社員や記事を書いているライターの方々も参考にしてみてください。

なお、今回の記事を書くにあたり、次のサイトを参考にしましたので、お時間がある方はこちらもご覧ください。

文章添削・推敲の13箇条―ひと工夫で美文に!プロの編集スタッフが教えます

一文一義を心がける

「一文一義」とは、「一つの文には、言いたいことを一つだけ書く」という意味です。文章を書いていると、頭の中に浮かんだことを次々に一文の中に入れ込んでしまいがちで、特に研究論文やレポートなどの専門的な文章になると、その傾向が顕著になります。

次の記事は、ナショナルジオグラフィックの記事を改変したものです。

一文が長過ぎる例(実際の記事を改変)

日本固有種のオオサンショウウオは1952年に国の特別天然記念物に指定され、1960年代以降、中国からイボや目の形態に違いがある「チュウゴクオオサンショウウオ」など外来種が持ち込まれているが、一部が野外の河川に逃げ出して日本のオオサンショウウオと交雑し、中間の形骸をした交雑種が増え、絶滅危惧種を含む生態系への被害が問題視されている。

一文が長過ぎるとダラダラとした印象になり、印象の薄い文章になってしまいます。以下は改変前の元の文章です。

実際の記事

日本固有種のオオサンショウウオは1952年に国の特別天然記念物に指定された。1960年代以降、中国からイボや目の形態に違いがある「チュウゴクオオサンショウウオ」など外来種が持ち込まれているが、一部が野外の河川に逃げ出して日本のオオサンショウウオと交雑。中間の形骸をした交雑種が増えており、絶滅危惧種を含む生態系への被害が問題視されている。

3つの文章に分けると、すっきりと読みやすくなるのが分かると思います。

自分が書いた文を読み直してみて、「一文がちょっと長いかな」と思ったときは、「一文一義」が守られているか、削れる部分はないか確認してみましょう。

こちらのサイトでは、一文の長さの目安は40〜70文字くらいとしています。

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いくつかのビジネス本を読んでみましたが、どれも同じような文字数を推奨しています。

『社会人になったらすぐに読む文章術の本』藤吉・小川、2023年、KADOKAWA

アカデミックライティングの場合は一般的な文に比べると長くなる傾向がありますが、それでも一文は100文字以内が読みやすいと思います。

読点の位置や数を考える

読点「、」の位置は、文章を書く上で非常に大切です。多すぎず、少なすぎず、読者がテンポ良く読めるように、読むペースを調整する役割があるからです。

先ほどの例文から、いくつかのパターンを作ってみます。

  1. 日本固有種の、オオサンショウウオは、1952年に、国の特別天然記念物に、指定された。
  2. 日本固有種のオオサンショウウオは、1952年に国の特別天然記念物に指定された。
  3. 日本固有種のオオサンショウウオは1952年に国の特別天然記念物に指定された。

皆さんはどのパターンが一番読みやすいでしょうか?一番目の文章は読点が多すぎて、文字を目で追っていくときに頻繁にストップがかかってしまい、読みにくく感じると思います。

私は二番目のパターン(読点一個)が一番読みやすく感じますが、原文は三番目(読点なし)です。このように、読点の打ち方には明確な正解があるわけではなく、読みやすいかどうかという、ちょっと主観的な要素もあるのですが、そこが日本語の面白いところとも言えますね。

しかしながら、「明確な正解」がある場合もあります。

Aのケースでは、「私」は家の庭(屋外)にいますが、Bのように読点を打つと、「私」は屋外にいるのか家の中にいるのか分かりません。「私」が屋外にいるのであれば、Aが正解となります。

このように、読点の位置によって意味が変わってくる場合もありますので、自分の意図が正確に伝わるかどうかを考えながら、読点を打つようにしましょう。

同じ文末表現を連続させない

同じ文末表現が連続すると、ストーリーに躍動感がなくなり、読者に稚拙な印象を与えます。特にアカデミックライティングでは、研究の背景や実験方法、実験結果など、事実を単調に書き並べていくことが多いので、同じ文末表現が連続してしまいがちです。

先ほどのナショナルジオグラフィックの記事を改変してみます。

同じ文末表現の繰り返し例(実際の記事を改変)

日本固有種のオオサンショウウオは1952年に国の特別天然記念物に指定されました。1960年代以降、中国からイボや目の形態に違いがある「チュウゴクオオサンショウウオ」など外来種が持ち込まれました。一部が野外の河川に逃げ出して日本のオオサンショウウオと交雑しました。

「〜ました」という文末をわざと3回繰り返してみました。なんだか稚拙な印象がするのが分かると思います。そのような単調な文末の繰り返しを避けるため、実際の記事では二文目と三文目を接続助詞「が」でつなげ、三文目の末尾は名詞でストップさせています。

実際の記事

日本固有種のオオサンショウウオは1952年に国の特別天然記念物に指定された。1960年代以降、中国からイボや目の形態に違いがある「チュウゴクオオサンショウウオ」など外来種が持ち込まれているが、一部が野外の河川に逃げ出して日本のオオサンショウウオと交雑。

ただし、接続助詞を使って文章をつなげると一文が長くなってしまうので、長くなり過ぎないように気を付けましょう。

長過ぎる修飾語に気を付ける

修飾語が長いと、文章を理解するのに時間がかかります。例として、先ほどのオオサンショウウオの例文を改変してみます。

長過ぎる修飾語の例(実際の記事を改変)

1952年に国の特別天然記念物に指定され、中国から持ち込まれた「チュウゴクオオサンショウウオ」などの外来種と交雑が進んでいる日本固有のオオサンショウウオは、近年の環境変化によって絶滅が危惧されている。

「オオサンショウウオ」という主語の前に「1952年に国の特別天然記念物に指定され・・・日本固有の」という非常に長い修飾語が付いているため、文章を読み始めたときに、何について書かれているのか(主語は何なのか)理解するのに時間がかかってしまいます。

研究論文やレポートなどを読んでいると、このような文章構造を目にすることがよくあります。その理由の一つは、英語文化の影響かもしれません。

アカデミックな文章では英語の文献を引用することも多いですが、文献の内容を紹介しようとすると、英語から日本語に翻訳する必要があります。そこで英語と日本語の文法構造の違いから、非常に長い修飾語が名詞に付いてきたり、主語と述語の間に非常に長い目的語が入ってきたりするのではないでしょうか。

例えば、関係代名詞の構文が良い例です。

We analyzed the data that …

という文章があれば、通常「…というデータを解析した」と、後ろから訳しますが(訳し上げる)、「…」の部分が長くなると、修飾語が長過ぎるという問題が起きます。その場合は、「…」の部分(関係代名詞節)をどこかで切って、二文に分ける工夫が必要になります。

つまり、英語の文献を引用するようなアカデミックライティングでは、翻訳の技術も大切になってくるということです。翻訳の基本技術については、別の記事でまとめてみたいと思います。

回りくどい表現(冗長表現)を避ける

回りくどい表現も、アカデミックライティングでは非常によく見られます。例えば、ある数値Aが増加したときに、

「数値Aが増加を示した」「数値Aの増加が見られた」

という言い方をすることがありますが、ここには「増加」という名詞と、「示した」「見られた」という動詞が使われています。「名詞+動詞」で一つの現象・動作を説明しているわけですが、日本語としては回りくどく、硬い表現です。硬い表現が間違っているわけではないですが、読者によっては読みにくく感じるでしょう。これを柔らかく言い換えると、

「数値Aが増加した」

となり、一つの動詞だけで表現することができます。さらに柔らかくすると、

「数値Aが増えた」

とも言えますが、研究論文ではそこまで柔らかくする必要はないかもしれません(一般向けの記事では、そこまで柔らかくしたほうがいいかどうか、読者を想定しながら検討します)。

もう一つ例を挙げてみましょう。

「Bという可能性を示唆している」

という表現は、「可能性」という名詞と「示唆する」という動詞を使って一つの現象・動作を説明していますが、「示唆」も「可能性」も同じような意味なので、二重表現となっています。どちらか一方を削って、

「Bという可能性がある」

「Bを示唆している」

とすることができます。もう少し柔らかく表現したい場合や、表現の繰り返しを避けたい場合は、

「Bかもしれない」

としてもいいでしょう。

まとめ

いかがでしたでしょうか?これら5つのポイントに気を付けるだけでも、論文やレポートは随分と読みやすくなるはずです。そして、書いた文章が読みやすいかどうかをチェックする最も簡単な方法は、自分で声に出して読んでみることです。声に出すことによって、日本語として不自然な表現や文の切れ目に気付くことも多いはずです。

その次にできることは、自分が書いた文章を他の人に読んでもらうことです。他の人に読んでもらうことによって、自分では気付けない文章のクセを指摘してもらえるかもしれないからです。文章のクセというのは誰にでもあるもので、この記事でも書いたように、読点の打ち方ひとつ取っても人によって異なります。あまり深刻に考えず、気軽にチェックしてもらえばいいと思います。

この記事を書いた人

田中泰章 博士

Yasuaki Tanaka Ph.D.

プロフィール
環境問題や教育制度などについて広い視点から考える自然科学者。2008年に東京大学大学院で博士号(環境学)を取得した後、東京大学、琉球大学、米国オハイオ州立大学、ブルネイ大学など、国内外の大学で研究と教育に約15年間携わってきました。これまでに30報以上の学術論文を筆頭著者として執筆し、国際的な科学雑誌の査読者として多数の論文審査も行っています。