論文・レポートの書き方:研究結果
前回の記事では、「研究方法」の書き方について解説しました。今回の記事では、「結果」の書き方についてコツや注意点をまとめてみたいと思います。
- 読者に見せる結果・見せない結果を慎重に選ぶ
- 結果の見せ方を考える
- 読者にとって必要な情報だけを記述する
- 方法や考察を入れ込まない
読者に見せる結果・見せない結果を慎重に選ぶ
自分が持っているすべてのデータや結果を、論文・レポートに入れ込む必要はありません。どの結果を見せてどの結果を見せないか、まずは慎重に考えます。
例えば、10種類の異なる実験を行い、そのうちの1つの実験から自分の期待通り(仮説通り)の結果が得られたとすれば、その1つの実験だけを取り上げることができます。もちろんその場合は、前回の記事で解説した「研究方法」でも、その1つの実験についてだけ説明します。
しかし、次の場合はどうでしょうか?同じ実験を10回繰り返し、そのうちの1回で自分の期待通りの結果が得られました。この場合は、期待通りの結果が得られたからといって、その1回だけに注目し、残りの9回の実験を無視するということはできません。本当であればその結果が得られる確率(成功率)は10%しかないのに、成功した1回だけを取り上げると成功率は100%のように見えてしまうからです。
別の例も挙げておきましょう。
ある野菜の種を100粒まき、そのうちの10粒から発芽しました。発芽することを自分が期待していたからといって、10粒だけに注目して、残りの90粒を無視することはできません。100粒全体で見れば発芽率10%ですが、発芽した10粒だけに注目してしまうと発芽率は100%になってしまい、結果が変わってしまうからです。ここまで極端ではなくても、例えば発芽した10粒を含む80粒だけに注目したとすると、発芽率は12.5%(10/80)となり、やはり本来の発芽率10%とは結果が変わってしまいます。
どの結果を見せてどの結果を見せないかは、研究倫理に抵触する可能性がある重要な判断ポイントになります。判断に迷ったときは、ベテランのアドバイザーに相談しましょう。
結果の見せ方を考える
どの結果を見せるか決めたら、次はその見せ方を考えます。同じ数値データであっても、それを表にまとめるのかグラフにまとめるのか、グラフにまとめるとすればどのようなグラフを作るのかなどについて検討します。表にまとめる場合とグラフ(図)にまとめる場合のメリット・デメリットを挙げておきますので、参考にしてください。
表のメリット
限られたスペースで、多くの数値を示すことができる。
グラフには入れにくい詳細な数値を示すことができる。
グラフ(図)のメリット
視覚的に分かりやすい。
特に、詳細な数値を示すことができるかどうかという点と、視覚的に分かりやすいかどうかという点は非常に重要です。実験や調査で得られた数値自体が重要な場合は、その数字を明確に示したいため、表にまとめるのが良いでしょう。数値自体にはそれほど意味がなく、時間とともに変化していく様子や、グループ間の相関関係、全体の傾向など、読者に視覚的なイメージを抱いてほしい場合は、グラフに描写することを考えます。もちろん、グラフを描写した上で、大事な数値だけは表にまとめても良いでしょう。
表や図にまとめるほどでもないけれど、調査・実験の結果として論文・レポートに一応は入れておきたいという程度であれば、本文中に文章で記述すれば良いでしょう。
結果に入れる表や図が固まったら、それらをすべて並べてみます。図・表を並べる順番は、基本的には「研究方法」に記述した調査や実験の順番に従います。例えば、「実験A」→「実験B」という流れで研究方法を説明したのなら、研究結果も同じように「実験A」→「実験B」という流れで説明していきます。そして読者の目線に立って、図・表を見ただけで論文やレポートのおおまかな内容を想像できるかどうか確認します。図・表は重要な結果のまとめなので、それらを見ただけで(文章がなくても)瞬時に結果の概要が分かれば、図・表がうまく作られていると言えるでしょう。
読者にとって必要な情報だけを記述する
図・表を作ることができたら、それらを見ながら論文・レポートの本文を記述していきます。また、図・表のなかには入れていなくても、重要な情報や数値については本文中に記述する必要があるでしょう。具体的な記述方法は、図・表の内容や何を主張したいのかによって変わってくるので、ここで十把一絡げに説明することはできませんが、大切なのは読者にとって重要な情報だけを記述するということです。どんな表でもグラフでも、丁寧に説明しようとすればいくらでも長く書けますが、過度な情報は読者の注意力を散漫にしてしまいます。その図・表から言いたいことだけを端的に記述するようにしましょう。
例えば、ある地点の気温を1年間観測し、その変化を表やグラフにまとめたとします。丁寧に説明しようとすれば、
1月の最高気温は・・・最低気温は・・・平均気温は・・・だった。
2月の最高気温は・・・最低気温は・・・平均気温は・・・だった。
3月の最高気温は・・・最低気温は・・・平均気温は・・・だった。
・・・
のように月毎に書いていけますが、そのような記述が本当に必要かどうか考えてみましょう。もし、年間を通した最高気温、最低気温、平均気温の情報だけで十分なのであれば、
年間の最高気温は・・・(X月X日)で、最低気温は・・・(X月X日)、平均気温は・・・だった。
とまとめることもできます。
図・表の説明をするときには、同時に統計解析の結果についても説明します。例えば、ある2つの変数が有意な正の相関を示していた場合、
数値Aと数値Bの間には、有意な正の相関が認められた(p < 0.05)。
のように、有意水準を示すp値を文尾に書きます。
ちなみに、「有意」という言葉を使うことができるのは、統計解析を行った場合だけです。統計解析を行っていないのであれば、「有意」という言葉を使うことはできません。日常生活の中で「有意」と言えば、「意味のあること、意義のあること」という意味ですが、学術論文で使われる「有意」は「統計学的に示された」を意味するからです。むやみやたらに「有意」という言葉を使わないように気を付けましょう。
方法や考察を入れ込まない
結果を記述するときに気を付けたいのは、研究方法や考察を書かないということです。研究方法は「結果」の前の節ですでに説明していますので、結果のなかでも方法に触れてしまうと、繰り返して書いてしまうことになります。考察についても、通常は結果のあとに「考察」という別の節を設けますので、自分の推察や考え方はそこで述べるようにしましょう。「結果」の節では、調査や実験を行って得られた事実だけを記述します。
ただし、論文やレポートによっては、「結果と考察」という節を設けて、結果を示しながら直後に考察を書いていくというスタイルも可能です。つまり、結果→考察→結果→考察→結果→考察・・・という流れです。結果と考察の節を分けたほうがいいのか、まとめて書いたほうがいいのかについては、論文・レポートの内容によって決めます。
まとめ
まとめると、「研究結果」を書く際のコツや注意点は次のようになります。
- 読者に見せる結果・見せない結果を慎重に選ぶ
- 結果の見せ方を考える
- 読者にとって必要な情報だけを記述する
- 方法や考察を入れ込まない
グラフの種類に応じた詳細な記述方法については、統計解析と合わせて別の記事でまとめたいと思います。「こういうグラフのときは、こう書く」という典型的なパターンを色々と紹介する予定です。
その前に、次回は「考察」の基本的な書き方について解説していきます。
この記事を書いた人
田中泰章 博士
Yasuaki Tanaka Ph.D.
プロフィール
環境問題や教育制度などについて広い視点から考える自然科学者。2008年に東京大学大学院で博士号(環境学)を取得した後、東京大学、琉球大学、米国オハイオ州立大学、ブルネイ大学など、国内外の大学で研究と教育に約15年間携わってきました。これまでに30報以上の学術論文を筆頭著者として執筆し、国際的な科学雑誌の査読者として多数の論文審査も行っています。
アカデミックラウンジでは、
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