論文・レポートの書き方:研究方法

前回の記事では、「序論」の書き方について解説しました。今回の記事では、「序論」の次に置かれることが多い、「研究方法」の書き方や内容をまとめてみたいと思います。

論文・レポートの書き方:序論

「序論」は単に文書の入口を示すだけではありません。実は文書の全体像を示す非常に重要な場所で、読者は序論を読むだけでその論文やレポートが面白そうかどうかを判断し…

なぜ「研究方法」を書く必要があるのか?

論文やレポートでは、必ずと言っていいほど、研究方法について記載することになっています。まずは、研究方法を書く目的についてまとめてみましょう。目的は大きく分けて2つあります。

研究が適切に行われたと主張したい

自分が行った調査や実験の方法を詳しく記述することによって、その研究が「適切に行われた」と主張する目的があります。「適切に行われた」と言っても、研究方法に対する見方や考え方は人それぞれです。そこで、その分野で慣例的に行われてきた調査方法や、実行可能な最善の実験方法などを説明することによって、暗に自分が採用した方法の正当性を主張します。ただし、あくまで「研究方法」なので、根拠や正当性を書くのは一部の重要な点だけにとどめ、それ以外は聞かれたときには答えられるという程度で大丈夫です。自分がなぜその方法で研究を行ったのかを考えながら書くことによって、誰から問われても「こういう理由で、この方法を使った」と説明できるようにしておきましょう。

研究方法の記述が曖昧だと、読者はその研究がどのように行われたのか分からず、研究結果に対する信頼度が大きく下がってしまいます。卒業論文であれば評価が下がりますし、学術雑誌に投稿する論文であれば、研究方法の記述が不十分というだけで却下(リジェクト)されることもよくあります。

他者が研究を再現できるようにする

実験系の研究では、研究の再現性が非常に重要視されます。再現性とは、他の誰かが同じ実験を行っても、同じ結果が得られるかどうかということです。研究方法が詳しく記述されていないと、他者が同じ実験をすることができないので、同じ結果も得られません。どんなに「すごい発見をした!」と論文に書いても、だれもそれを再現できなければ、ただのホラ吹きになってしまいます。後で誰かが同じ実験を再現できるように、その方法を詳しく記述しておく必要があるのです。

実験系の研究とは違って、自然現象を観測したりするような観察系の研究では再現性がそこまで重要視されないかもしれません。なぜなら、自然現象や気象条件などはその場限りのものであり、「さまざまな条件が重なった結果、たまたまそうなった」ということもあるからです。しかし、たとえそういう観察系の研究であったとしても、再現性を意識した研究方法の記述は大切です。似たような条件が重なれば、また同じような現象・状況が起こるかもしれず、読者にとっては有益な情報になるからです。

ここからは、研究方法に書く内容について具体的に見ていきます。

研究方法に書く内容① 研究対象・調査場所

どのような調査・実験を行うにしても、まずはその対象や場所について説明します。「いつ」「どこで」「何を」対象にして研究を行ったのかということです。

生物学や農学の研究であれば、観察対象の生物種や調査対象地などが研究結果に大きく影響を与えることが予想されるため、これらは重要な情報になります。調査地は、地図や正確な緯度経度などを示しながら説明します。化学や物理の実験であれば、使用した薬品の純度や製造メーカーなどを記載する必要がありますが、それは次の「調査・実験の手順」のなかで説明してもいいでしょう。

文献調査や総説(レビュー)のような、実験や現地調査を伴わない研究においても、研究対象を書くことはできます。例えば、どの検索システムを使い、どのようなキーワードで文献を検索したのか、多数出てきた検索結果の中からどのようにして調査対象の文献に絞ったのか、などについて説明していきます。

研究方法に書く内容② 調査・実験・分析の手順

実験の手順や数値データの取得方法(測定方法)、サンプルの分析方法、アンケート調査の作成・実施方法など、実施した調査や実験について順を追って詳細に説明していきます。本記事では「手順」として一括りにしていますが、実際には実験準備の手順、実験の手順、サンプル分析の手順など、各段階が存在します。一つの段落や項に色々な手順を盛り込もうとするのではなく、「準備」「実験」「分析」を分けるなどして、読者にとって分かりやすい配置を考えましょう。

常に考えなければいけないのは、その実験や調査をしていない読者が読んだときに、ほとんど同じ実験や調査を再現できるかということです。手順を書き終えたら、いったん頭を白紙にして読み返し、この手順書を読むだけで読者が本当に同じ実験・調査を行うことができるかどうか想像してみましょう。

異なる実験や調査をいくつか行い、それらをまとめて一つの論文にすることがあります。そういう場合、実際に実験・調査を行なった順番で書く必要はなく、論文としての構成を考えながら、実験や調査ごとに配置、記述していきます。例えば、研究室内で小規模な実験をしてから、野外で観測を行なったとしましょう。時系列では「室内実験」→「野外観測」ですが、論文の構成として逆の順番のほうが面白いと思えば、「野外観測」→「室内実験」のように配置して書いても構いません。この配置順に従って、後で研究結果を説明していくことになります。

研究方法に書く内容③ 統計解析の方法

一般的に統計といえば、「人口統計」や「経済統計」のように、たくさんのデータを集めて表やグラフにまとめたものというイメージがあります。論文やレポートでいう統計解析とは、集められたデータを使って、全体の傾向やグループ間の差を調べることを指します。

自分が得たデータについて統計解析を行う必要がある場合は、研究方法の最後の辺りにまとめて記載します。「数値Aと数値Bは〜の方法で統計解析を行なった。数値Cはxxxの方法で統計解析を行なった」というように、数値ごとにどんな統計解析を行ったのか分かるように書きましょう。

統計解析は多くの学生が苦手としている分野ですが、そもそも統計解析を行う必要があるかどうかについても考えてみましょう。統計解析とは、集められたデータの傾向を調べたり、限られたサンプルから全体像を予測したりする作業ですから、次のような場合には必要ないと言えるでしょう。

  • サンプル数(得られたデータの数)が非常に少ない。
  • 解析しなくても、容易に全体像の想像がつく。
  • 結果を数値化することができない。

統計解析の基本については、別の記事にまとめたいと思います。

まとめ

今回の記事では、研究方法の書き方や内容についてまとめてみました。

  1. 研究対象・調査場所
  2. 調査・実験・分析の手順
  3. 統計解析の方法

以前の記事「論文・レポートの書き方:基本的な構成」でも触れましたが、「研究方法」は論文やレポートの中で最も書きやすい項目です。自分が調査や実験中に付けた記録を見ながら、すでに実行したことを淡々と説明していけばよいからです。あるいは、実行しながらその都度(日記のように)方法を記述しておくと、詳細を忘れずに済みます。データや結果がすでに出ているものの、論文やレポートの執筆がはかどらなくて困っている場合は、まずはこの研究方法から書き始めてみるとよいでしょう。

次回の記事では、研究結果の書き方についてまとめてみたいと思います。

この記事を書いた人

田中泰章 博士

Yasuaki Tanaka Ph.D.

プロフィール
環境問題や教育制度などについて広い視点から考える自然科学者。2008年に東京大学大学院で博士号(環境学)を取得した後、東京大学、琉球大学、米国オハイオ州立大学、ブルネイ大学など、国内外の大学で研究と教育に約15年間携わってきました。これまでに30報以上の学術論文を筆頭著者として執筆し、国際的な科学雑誌の査読者として多数の論文審査も行っています。