論文を書くための統計解析:まずはここから!比較か相関か?

論文を書くための統計解析とは?

研究データを論文として学術雑誌に掲載するためには、たいていの場合、データを統計学的に解析することが求められます。分野にもよりますが、統計解析がほぼ必須となっている科学分野は非常に多いです。

一方で、統計解析を苦手としている学生や研究者は多く、統計解析は論文を書く上でちょっとしたハードルになっているとも言えます。その理由としては、統計解析の一般的な参考書では、たくさんの複雑な数式を使いながら基礎理論を解説していることが多いため、何をやっているのかイメージしにくいということが挙げられるでしょう。

しかし論文を書く上では、そのような数式を使った基礎理論はあまり重要ではありません。理論をしっかり理解しているのに越したことはないでしょうが、数式を理解する段階で詰まってしまうと、実用的な解析に進めなくなってしまうからです。数式の理解や理論の証明よりも、「こういうケースではこう解析する」という実践的な知識・技術のほうがはるかに重要です。

今回のブログシリーズ「論文を書くための統計解析」では、基礎理論は最小限にとどめながら、論文を書くために本当に必要な知識や技術に絞って統計解析を解説していきたいと思います。

第一回目の今回は、「比較か相関か?」というテーマです。

統計解析する目的は?

研究データの統計解析を行うときに、最初に考えなければならないのは、「何を明らかにしたいのか」ということです。統計解析を行う目的をはっきりさせることで、どの種類の解析を行えば良いのか見えてくるからです。

統計解析の種類はたくさんあるように見えますが、論文を書くために必要な統計解析としては、次の二つのパターンが非常に多いです。

  1. グループ間を比較したい
  2. 相関関係を調べたい

それぞれについて見ていきます。

グループ間を比較したい

グループ間の比較は、論文を書くときに最も多い統計解析のパターンと言っても良いでしょう。例えば実験系の研究では、目的とする「処理(treatment)」の効果を検証するために、実験区(処理区)と対照区(control)を比較します。次のような場合はすべてグループ間の比較です。

  • ある指標について、実験区と対照区を比較したい(2群間の比較)
  • ある指標について、5つの調査地域を比較したい(多群間の比較)
  • アンケート調査を行った結果、ある質問に対する回答の傾向について、男性と女性の違いを比較したい(2群間の比較)

グループ間の違いを調べたいときに、各グループの平均値は簡単に計算できますが、平均値が違うというだけでは、グループ間に差があるとは言えません。平均値が違っていてもデータのばらつきが大きければ、平均値のわずかな違いは偶然かもしれないからです。

このような場合に、統計学的な解析によってグループ間に差があるかどうかを検証します。

変数間の関係を調べたい

変数間の関係も、論文を書くときによく使われる統計解析のパターンです。

  • 観測値Aと観測値Bの間には関係があるかどうか調べたい(相関関係)
  • ある観測値が時間とともにどのように変化するのか調べたい(時系列変化)
  • ある観測値に影響を及ぼしていそうな要因A・B・C・D・Eがあり、それぞれの影響度を調べたい(重回帰分析)
  • アンケート調査の結果にもとづいて、人々の特徴や傾向を把握したい(主成分分析)

「Aの現象とBの現象の間には関係があるのではないか」「こういう状況だと、こういう結果になるのではないか」「こういう性格の人は、こういう行動を取るのではないか」、そういう関係性を検証したいときに行う統計解析です。

ここで検証できるのはあくまで相関関係であり、因果関係ではありません。数値AとBの間に有意な相関関係が確認できたからといって、「Aの原因はBだ」とは言えないわけです。論文の中で相関を解析する目的は、「AとBの間には相関がある。だからAの原因はBかもしれない」と主張するためです。

まとめ

論文でよく使われる統計解析には、「グループ間の比較」と「変数間の関係」の2種類があることを解説しました。統計解析の参考書を開くとたくさんの解析方法が載っていて分かりにくいですが、基本的にはこの2種類に分けられるということを知っておけば、自分がどちらのタイプの分析を必要としているのか考えやすいでしょう。

次回からは、さまざまな解析方法について具体的に解説していきます。今回の記事を「目次」のようにして、リンクをクリックすれば読者が必要としている統計解析の記事に行けるように、記事シリーズ全体を構成していく予定です。

この記事を書いた人

田中泰章 博士

Yasuaki Tanaka Ph.D.

プロフィール
環境問題や教育制度などについて広い視点から考える自然科学者。2008年に東京大学大学院で博士号(環境学)を取得した後、東京大学、琉球大学、米国オハイオ州立大学、ブルネイ大学など、国内外の大学で研究と教育に約15年間携わってきました。これまでに30報以上の学術論文を筆頭著者として執筆し、国際的な科学雑誌の査読者として多数の論文審査も行っています。