科学論文・記事を読みやすくする 校正テクニック8選
科学論文や学術書などの専門的な文章というのは、多くの読者にとって読みにくいものです。専門用語が難しいというだけでなく、文章特有のクセがあるからです。今回の記事では、科学論文や専門書などを読みにくくさせているライティングのクセと、その改善方法について、8つの点にまとめてみました。
①長過ぎる文を短くする(一文一義)
「一文一義」とは、「一つの文章には、言いたいことを一つだけ書く」という意味です。文章を書いていると、頭の中に浮かんだことを次々に一文の中に入れ込んでしまいがちで、特に研究論文やレポートなどの専門的な文章になると、その傾向が顕著になります。
次の記事は、ナショナルジオグラフィックの記事を改変したものです。
一文が長過ぎる例(実際の記事を改変)
日本固有種のオオサンショウウオは1952年に国の特別天然記念物に指定され、1960年代以降、中国からイボや目の形態に違いがある「チュウゴクオオサンショウウオ」など外来種が持ち込まれているが、一部が野外の河川に逃げ出して日本のオオサンショウウオと交雑し、中間の形骸をした交雑種が増え、絶滅危惧種を含む生態系への被害が問題視されている。
一文が長過ぎるとダラダラとした印象になり、印象の薄い文章になってしまいます。以下は改変前の元の文章です。
実際の記事
日本固有種のオオサンショウウオは1952年に国の特別天然記念物に指定された。1960年代以降、中国からイボや目の形態に違いがある「チュウゴクオオサンショウウオ」など外来種が持ち込まれているが、一部が野外の河川に逃げ出して日本のオオサンショウウオと交雑。中間の形骸をした交雑種が増えており、絶滅危惧種を含む生態系への被害が問題視されている。
3つの文章に分けると、すっきりと読みやすくなるのがわかると思います。
自分が書いた文章を読み直してみて、「一文がちょっと長いかな」と思ったときは、「一文一義」が守られているか、削れる部分はないか確認してみましょう。
こちらのサイトでは、一文の長さの目安は40〜70文字くらいとしています。
文章添削・推敲の13箇条―ひと工夫で美文に!プロの編集スタッフが教えます
アカデミックライティングの場合は、一般的な文章に比べると長くなる傾向がありますが、それでも一文としては100文字以内が読みやすいと思います。
②漢字の連続を断つ
科学系の専門用語にはたくさんの漢字が連なったものが多くあります。その用語が読者の間ですっかり定着していたり、分割すると意味が変わってしまったりする場合はそのまま使うしかありませんが、読者に応じて連続した漢字を分割してみることを考えます。
- 「環境配慮行動実施」
→ 改善例「環境に配慮した行動の実施」
- 「光合成速度測定法」
→ 改善例「光合成速度を測定する方法」
- 「季節変動観測結果」
→ 改善例「季節変動を観測した結果」
- 「土壌微生物群衆構造解析」
→ 改善例「土壌微生物の群衆構造を解析」
- 「臓器移植待機患者」
→ 改善例「臓器移植を待つ患者」
このように連続した漢字を分割することによって、その科学分野に不慣れな読者でも用語の意味を理解しやすくなります。
③「名詞」を「動詞」に変える
一つの動詞だけで表現できることを、「名詞+動詞」で表現していることが、科学論文では頻繁にあります。「名詞+動詞」が間違っているわけではありませんが、名詞を動詞に変えて表現することによって文章が短くなり、すっきりします。
- 「増加を示した」
→ 改善例「増加した」
- 「実行に移した」
→ 改善例「実行した」
- 「発掘が行われた」
→ 改善例「発掘された」
④「〜である」を削る
「〜である」は非常によく使われる文末表現ですが、連続したり多用されたりすると目障りになります。「〜である」をすべて削除する必要はないですが、「ここにはなくてもいいかな」と思える箇所は削ってみましょう。
- 「〜なのである」
→ 改善例「〜だ」
- 「〜したものである」
→ 改善例「〜した」
- 「〜だということである」
→ 改善例「〜だ」
⑤接続詞を削る
これは日本語だけでなく英語の論文についても言えることですが、前文を受ける接続詞が頻繁に使われていることがあります。
接続詞が多用されている例
「このように・・・。なぜならば・・・。しかしながら・・・。つまり・・・。したがって・・・。」
接続詞の多用は読者に冗長な印象を与え、スムーズな読みを妨げます。接続詞は本当に必要な箇所にだけ使用し、なくても差し支えない箇所では使わないようにしましょう。迷った場合はいったん接続詞を外して前後の文を読み、意味が問題なくつながるようであれば、接続詞はなくても大丈夫です。
⑥副詞を削る
程度を表す副詞も多用されると目障りになります。
「非常に」
「著しく」
「顕著に」
「極めて」
「甚だしく」
執筆者にとってこれらはとても便利な言葉ですが、その「程度」を示さないと、読者にとっては陳腐な言葉にも聞こえかねません。何を根拠に「非常に」とか「著しく」とか言っているのか分からないからです。科学論文でこのような副詞を使うときは、論文の中のどこかで、その「程度」が分かるように書かれているかどうかチェックしてみましょう。
⑦不要な受動態を能動態に変える
科学系の論文では、「もの(非生物)」を主語にして受動態で文章を書くことが多く見られます。英語の論文を参考にしながら(翻訳しながら)書くためではないかと思いますが(英語では非生物主語がありふれている)、日本語では不自然なこともあります。能動態に直してみて、どちらが日本語として自然か比べてみましょう。
- 「〜が(は)測定された」
→ 改善例「〜を測定した」
- 「〜が(は)行われた」
→ 改善例「〜を行った」
- 「〜が(は)保存された」
→ 改善例「〜を保存した」
受動態でも次のような表現は不自然さを感じないのではないでしょうか。
「〜と考えられる」
「〜が示されている」
「〜と報告されている」
「もの」ではなく、考え方や事実などが主語にくるときは受動態でも問題ないでしょう。
⑧受動態を連続させない
一つの文章としては問題なくても、複数の文末に受動態が連続して使われていると、単調で冗長な印象になります。
「〜が示された。〜と考えられる。〜が報告されている。」
また、一文に複数の受動態が含まれているのも読みにくいでしょう。
「〜が実現化されると期待されている」
「〜が得られることが報告されている」
「〜が認められると考えられる」
いずれの場合も、受動態を削除したり、他の表現に変えたりすることによって改善できます。
一般的に、能動態に比べると受動態のほうが意味を理解するのに時間がかかります。受動態で表現するときは、その受動態が本当に必要かどうか考えながら書いてみましょう。
まとめ
以上をまとめると、次の8つのポイントになります。
- 長過ぎる文を短くする(一文一義)
- 漢字の連続を断つ
- 「名詞」を「動詞」に変える
- 「〜である」を削る
- 接続詞を削る
- 副詞を削る
- 不要な受動態を能動態に変える
- 受動態を連続させない
細かいことを挙げると他にもありますが、今回は代表的なポイントだけをまとめてみました。論文のような堅苦しい内容の文章でも、これらを修正したり気を付けたりするだけでずっと読みやすくなると思いますので、ぜひチェックしてみてください!
この記事を書いた人
田中泰章 博士
Yasuaki Tanaka Ph.D.
プロフィール
環境問題や教育制度などについて広い視点から考える自然科学者。2008年に東京大学大学院で博士号(環境学)を取得した後、東京大学、琉球大学、米国オハイオ州立大学、ブルネイ大学など、国内外の大学で研究と教育に約15年間携わってきました。これまでに30報以上の学術論文を筆頭著者として執筆し、国際的な科学雑誌の査読者として多数の論文審査も行っています。
アカデミックラウンジでは、
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