論文・レポートの書き方:ハーバード方式とバンクーバー方式
論文やレポートを書いていて、参考にしたり引用したりした文献(参考文献・引用文献)があれば、その文献のリストを文書の最後に記載します。今回の記事では、文献を引用する方法と、文献リストの書式についてまとめてみます。
参考文献と引用文献
似たような用語ですが、まずは「参考文献」と「引用文献」の違いを理解しておきましょう。また、そもそも文献情報を示す必要がない場合もあります。その辺りについて分かりやすくまとめてある記述があったのでご紹介します。
引用文献とは、ある特定の文献だけが示していることについて言及する場合のものである。その文献によって明らかになった知見であり、他の文献では示されていない知見である。
参考文献とは、ある特定の文献だけが示しているわけではなく、その学術分野の一般常識になっていることだけれども、一般的な学部生の知識を超える場合のものである。
文献情報を示す必要がないものは、その学術分野の一般常識であり、かつ、一般的な学部生にとっても知識内にあるものである。
これからレポート・卒論を書く若者のために 第2版(酒井聡樹、2017年)
その学術分野の一般常識とか、学部生の知識を超える・超えないとか、かなり曖昧な定義ではありますが、何となくは分かるような気がするのではないでしょうか。
例えば、「植物は光合成している」という記述は、生物学を勉強している学生にとっては一般常識なので、参考文献や引用文献を示す必要はありません。「植物によって光合成速度が異なる」であれば、そのようなデータを示している文献はたくさんあるので、そのなかのいくつかを「参考文献」として挙げることができます。「最新の研究によれば、植物の光合成は〜だと分かった」というようなその文献しか示していない情報の場合は、「引用文献」として扱います。
また、上のように、ある文献からそのまま(一字一句変えずに)転載するときも「引用文献」になります。
厳密にはこのような違いはあるものの、実際に論文やレポートを書くときには、引用文献と参考文献は同じように記述し、同じ文献リスト(英語では“References”)にまとめるので、両者の違いを意識する必要はそれほどないかもしれません。本記事では、両者をまとめて単に「文献」と呼ぶことにします。
文献の記述方法は主に、「ハーバード方式(著者名方式)」と「バンクーバー方式(引用順方式)」に分けられます。それぞれの違いについて見ていきましょう。
ハーバード方式(著者名方式)
引用箇所に著者名、出版年を示し、文書の最後に著者名順で文献リストを示す方式です。
渡邊(2022)『大学生のための論文・レポートの論理的な書き方』の中の例文を使ってご紹介します。
<文書の本文>
テレビが高度経済成長に伴う大量生産・大量消費の時代を支えた。高度経済成長期は「テレビを中心にするマスメディアが人々のコミュニケーションを支配し、情報を全国規模で均質化していく時期」(松原, 2000)と規定することもできる。
<文書の最後に書く文献情報>
松原隆一郎 (2000).『消費資本主義のゆくえ−コンビニから見た日本経済』. 筑摩書房, ちくま新書. p. 80.
本文の中に著者名と出版年が記載されています。最後の文献リストには、通常は複数の文献を書くことになりますが、その順番は著者名のアルファベット順です。文書内に出てきた順番ではありません。
文献リストのなかに同じ著者の文献が複数あるときは、出版年の古いほうから順に並べます。また、同じ著者が同じ出版年に複数の文献を出版しているときは、「2000a」「2000b」のように出版年にa・b・cなどの補助マークを付けて区別します。その場合は本文中でも(松原, 2000a)のように表記し、本文中の表記と文献リスト中の表記を一致させるようにしましょう。
バンクーバー方式(引用順方式)
引用箇所に通し番号をつけて、文書の最後に番号順で文献リストを示す方式です。
同じく、渡邊(2022)『大学生のための論文・レポートの論理的な書き方』の中の例文を使ってご紹介します。
<文書の本文>
テレビが高度経済成長に伴う大量生産・大量消費の時代を支えた。高度経済成長期は「テレビを中心にするマスメディアが人々のコミュニケーションを支配し、情報を全国規模で均質化していく時期」1と規定することもできる。
<文書の最後に書く文献リスト>
1 松原隆一郎 (2000).『消費資本主義のゆくえ−コンビニから見た日本経済』. 筑摩書房, ちくま新書. p. 80.
文献の番号は、文書の中で出てきた順番に振っていきますが、同じ文献を2回、3回・・・と引用するときは、その文献にすでに振られている番号を使用します。つまり、一つの文献につき一つの番号が振られるので、同じ文献に異なる番号が付くことはありません。そして文書の最後に書く文献リストは、この番号順に書きます。
ハーバード方式とバンクーバー方式、どっちがいい?
上の例では文献が一つだけの場合を示しましたが、実際の論文やレポートでは文献数が数十、ときには100以上にもなります。文献数が多くなると、ほとんどの読者にとってはハーバード方式(著者名方式)のほうが文書を読みやすく感じるのではないでしょうか。ハーバード方式では文章内に文献の著者名と出版年が書かれているので、文章を読みながらどの文献を指しているのかイメージしやすいからです。
バンクーバー方式(引用順方式)では文章中に番号しか書かれていないので、読者はどの文献を指しているのか分からず、「この番号ってどの文献だったっけ?」と論文末尾の文献リストをいちいち見ないといけません。
どちらでもいい場合はハーバード方式を選べば良いと思いますが、雑誌に掲載される学術論文の場合は、雑誌の規定として方式が決められていることがほとんどです。指示がある場合はそれに従うようにしましょう。
文献リストの書式
ハーバード方式にしろ、バンクーバー方式にしろ、文書の最後に文献リストを記載することには変わりありません。最後にその書式について紹介しておきます。文献リストの書式は、次に示すようにたくさんあります。
Chicago(シカゴ大学)[ハーバード方式]
人文系で使用されることが多いスタイル
例. Usaco, Taro. "Reference Management of Usaco." Jornal of USACO 24, no. 3 (2018): 55-58.
APA(アメリカ心理学会)[ハーバード方式]
心理学系で使用されることが多いスタイル
例. Usaco, T. (2018). Reference management of USACO. Jornal of USACO, 24(3), 55-58.
MLA(アメリカ現代語学文学協会)[ハーバード方式]
人文系で使用されることが多いスタイル
例. Usaco, Taro. "Reference Management of Usaco." Jornal of USACO, vol. 24, no. 3, 2018, pp. 55-58.
NLM(米国国立医学図書館)[バンクーバー方式]
医学系で使用されることが多いスタイル
例. Usaco T. Reference management of USACO. Jornal of USACO. 2018;24(3):55-8.
IEEE(電気電子学会)[バンクーバー方式]
電気や情報工学系で使用されることが多いスタイル
例. T. Usaco, "Reference management of USACO," Jornal of USACO, vol. 24, no. 3, pp. 55-58, 2018.
SIST02(科学技術情報流通技術基準)[ハーバード方式]
日本語文献で使用されることが多いスタイル
例. Usaco, Taro. Reference management of USACO. Jornal of USACO. 2018, vol. 24, no. 3, p. 55-58.
USACO, 『[学生向け] レポート・論文に使える参考文献の書き方』を改変
出版年を括弧で囲うのか囲わないのか、ページ数にppを付けるのか付けないのかなど、細かい違いがたくさんあります。しかし、大学で課される卒業論文やレポートでは、文献の書式までは指定されないことが多いようなので、もし指示がなければ、どの書式でも自分が好きなものを選べば良いと思います。
大切なのは書式を統一することです。文献の書式が統一されているかどうかが評価基準になっていることも多いので、その点は注意しましょう。
学術雑誌に掲載するような論文や記事の場合は、雑誌によって書式が決まっているはずですので、その書式に従います。
まとめ
以上が参考文献・引用文献の書き方でした。本記事では代表的な例をかいつまんで説明しましたが、実際には引用方法や文献リストの書式にはさまざまなものがあります。規定があればそれに従う、なければ好きな形式で良いが、引用方法や書式は文書内で統一させる、というのが要点です。学生の論文やレポートだけでなく、一般的な報告書や記事にも共通することなので、ぜひ注意を払って文献の書式を整えてみましょう。
この記事を書いた人
田中泰章 博士
Yasuaki Tanaka Ph.D.
プロフィール
環境問題や教育制度などについて広い視点から考える自然科学者。2008年に東京大学大学院で博士号(環境学)を取得した後、東京大学、琉球大学、米国オハイオ州立大学、ブルネイ大学など、国内外の大学で研究と教育に約15年間携わってきました。これまでに30報以上の学術論文を筆頭著者として執筆し、国際的な科学雑誌の査読者として多数の論文審査も行っています。
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