論文を書くためのグラフ作成:棒グラフを作り、説明する

論文やレポートで最もよく使うグラフとして、前回の記事では散布図を紹介しました。

論文を書くためのグラフ作成:散布図を作り、説明する

論文やレポートの中で、どんなときに散布図を描くのか、データの傾向をどのように統計解析し、説明すれば良いのか、そして散布図をもとにどんな考察をすれば良いのか、な…

今回の記事では、もう一つよく使うグラフとして棒グラフを取り上げ、どんなときに棒グラフを描くのか、棒グラフは論文中でどのように説明すれば良いのか、そして棒グラフからどんなことが考察できるのか、などについて解説していきます。

棒グラフを使うのはどんなとき?

棒グラフを使うのは、グループ間で数値を比較したいときです。例えば、A市とB市で人口密度を比較したり、A・B・Cという3つの条件で植物の成長速度を比較したりするような場合です。グループ間で数値を比較するので、横軸はグループを表す名義尺度(あるいは順序尺度)、縦軸は数量データ(比例尺度・間隔尺度)になります。

横軸は一般的には名義尺度(あるいは順序尺度)ですが、場合によっては数量データも扱うことができます。その事例として経時データを挙げておきます。経時データ、つまり時間とともに何かの数値が変化したりしなかったりするのを追跡したデータは、一般的には時間を横軸とした折れ線グラフ(散布図の一種)で表します。この場合、横軸の時間は数量データとして扱いますが、順序尺度として扱って棒グラフを作ることも可能です。

例えば、A・B・Cという3種の木の苗を植樹し、植樹したとき(0年目)、1年後、3年後、5年後に指標Yを測定したとしましょう。その結果、図1のような時系列データが得られました。各プロットは平均値と標準偏差を表しています。

時系列データは折れ線グラフで表すのが一般的で、時間とともに数値が変化していく様子が分かります。しかし、図1ではプロットや標準偏差のエラーバーが重なってしまっていて、プロットの値や誤差に注目したい場合はかなり見にくい図と言えます。

図1 年数と指標Y関係を折れ線グラフで表したとき

そこで図1を棒グラフで表すと、図2のようになります。それぞれのグループの平均値や標準偏差が見やすくなりますよね。その代わり、横軸は数量ではなく単なる名義尺度になるので、各時点は等間隔になってしまい、折れ線グラフとは傾向が少し違って見えます。

このように、折れ線グラフでも棒グラフでも表せるデータもあるので、そういう場合は読者に何を示したいのかによって、どちらのグラフにするか決めます。

図2 年数と指標Yの関係を棒グラフで表したとき

統計解析

棒グラフはグループ間の数値を比較したいときに作る図なので、その傾向を統計学的に示したいときは、t検定や分散分析のようなグループ間の比較を行います。大きく分けるとパラメトリックな解析とノンパラメトリックな解析があります。パラメトリックな解析を行うにはいくつかの前提条件がありますが、最も一般的なのは残差の正規性と等分散性です。これらが仮定できるデータの場合はパラメトリックな解析、仮定できない場合はノンパラメトリックな解析になります。

パラメトリックな群間比較

スチューデントのt検定、分散分析、チューキー検定、ダネット検定、ウィリアムズ検定など

ノンパラメトリックな群間比較

マン・ホイットニーのU検定、ウィルコクソンの順位和検定、スティール・ドゥアス検定、スティール検定、シャーリー・ウィリアムズ検定など

結果の書き方

棒グラフを作成して統計解析を行なった後は、その結果について文章で記述していきます。結果の書き方はさまざまですが、最も基本的なのは

観測値Yは、グループAとグループBの間で有意な差が見られた」

というような記述でしょう。パラメトリックな解析でもノンパラメトリックな解析でも、基本的な記述は同じです。

ただし、ノンパラメトリックな解析を行うということはデータの正規性が仮定できないということなので、そもそも棒グラフで平均値や標準偏差を示すのが適切かどうか検討したほうがいいです。「理論的には正規分布するはずだけど、統計学的には(惜しくも)正規分布ではなかった」という状況であれば、棒グラフで示しても問題ないと思いますが、明らかに正規分布ではないデータについて、棒グラフで平均値や標準偏差を示すのは適切ではありません。そういう場合は、箱ひげ図のほうが適切です。

考察の書き方

論文の「考察」では、棒グラフで見られた傾向や統計解析の結果をもとに、それが何を意味しているのか解釈していきます。例えば、

「観測値YはグループAとグループBの間で有意な差が見られたことから、AとBにはこの差をもたらしている何らかの違い(要因)があると考えられる」

と解釈することができます。そして、有意差が生じた要因について、考えられる可能性を説明していくことが、その棒グラフについての考察になります。一つの棒グラフだけで最低でも一段落、ときには何段落も使って考察できるでしょう。

もちろん、一つの棒グラフだけでなく、それ以外のデータも総合的に加味しながら、考察を組み立てていくことが大切です。グループAとグループBの違いに影響を与えている要因をさまざまな情報や可能性から推測して、最終的な結論を導き出します。

まとめ

今回は論文・レポートを想定した棒グラフの使い方についてまとめました。キーワードは「グループ間の比較」です。散布図と並んで、論文・レポートでは最もよく使われる図の一つなので、基本的な解析方法や説明の仕方はぜひ身に付けておきましょう。

論文を書くためのグラフ作成:散布図を作り、説明する

論文やレポートの中で、どんなときに散布図を描くのか、データの傾向をどのように統計解析し、説明すれば良いのか、そして散布図をもとにどんな考察をすれば良いのか、な…

この記事を書いた人

田中泰章 博士

Yasuaki Tanaka Ph.D.

プロフィール
環境問題や教育制度などについて広い視点から考える自然科学者。2008年に東京大学大学院で博士号(環境学)を取得した後、東京大学、琉球大学、米国オハイオ州立大学、ブルネイ大学など、国内外の大学で研究と教育に約15年間携わってきました。これまでに30報以上の学術論文を筆頭著者として執筆し、国際的な科学雑誌の査読者として多数の論文審査も行っています。

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