論文・レポートの書き方:段落を作る
前回の記事では、論文やレポートの構成を決めるために、まずは「項のアウトライン」と「段落のアウトライン」を作ることを説明しました。
もう一度確認しておくと、段落のアウトラインとは、「この段落ではこれについて書く」という、段落を短く要約した文のリストのことです。
段落アウトラインとは
第一段落の要約文(1文あるいは1つの語句で短く書く)
第二段落の要約文(1文あるいは1つの語句で短く書く)
第三段落の要約文(1文あるいは1つの語句で短く書く)
・・・
段落のアウトラインができれば、そのアウトラインに沿って各段落の中身を具体的に書いていくことになります。
今回の記事は、一つ一つの段落をどのように書いていくのかについて解説します。ポイントは「キーワード」です。序論でも考察でも、どんな段落にも当てはまる共通ルールなので、文章を書くときに参考にしてみてください。
最初に参考文献を紹介しておきます。
『これで書ける!理系作文の鉄則46』斎藤恭一、化学同人、2023年
キーワードで文を連結する
段落を構成する文は、キーワードで連結されている場合がほとんどです。上の参考文献の中から例文を紹介します(下線・太字は筆者によるものです)。
おばあちゃんを訪ねたら、「よく来たね」と喜んでくれ、お小遣いをくれた。おばあちゃんにもらったお小遣いを持って、帰り道に駄菓子屋に立ち寄った。駄菓子屋でふ菓子の10本入り袋を買った。ふ菓子を1本取り出し、食べ歩きながら、おばあちゃんの笑顔を思い出した。
『これで書ける!理系作文の鉄則46』斎藤恭一、化学同人、2023年
1文目と2文目は両方とも、「おばあちゃん」「お小遣い」という二つの単語が含まれており、これらがキーワードとなって二つの文を連結しています。同様に、2文目と3文目は「駄菓子屋」というキーワードで連結され、3文目と4文目は「ふ菓子」というキーワードで連結されています。
言い換えると、キーワードが
おばあちゃん → お小遣い → 駄菓子屋 → ふ菓子
という順に流れているのが分かります。
一つの段落の中には、このようなキーワードの流れが必ず存在します。逆にこのような流れがないと、それぞれの文がバラバラに存在することになり、主張に一貫性のない(何が言いたいのかよく分からない)段落になってしまいます。
同じ文献からもう一つ例文を挙げておきます(下線・太字は筆者によるものです)。
高級不飽和脂肪酸、特に、ドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタイン酸(EPA)は、網膜や脳の薬として有望である。高級不飽和脂肪酸は、イワシやカツオなどの魚の油に含まれている。しかしながら、薬用には高級不飽和脂肪酸を精製する必要がある。真空蒸留、溶媒抽出、吸着クロマトグラフィー、および超臨界流体クロマトグラフィーが高級不飽和脂肪酸を精製する方法として提案されている。後者の2つの方法は、銀イオンと高級不飽和脂肪酸の炭素-炭素二重結合との特異的相互作用に基づいている。この相互作用に基づいたクロマトグラフィーは「銀イオンクロマトグラフィー」と名付けられている。
『これで書ける!理系作文の鉄則46』斎藤恭一、化学同人、2023年
1文目から4文目までのすべての文で「高級不飽和脂肪酸」という単語が使われ、このキーワードで4つの文が連結されています。また、3文目と4文目は「精製」という単語でも連結されています。続いて4文目と5分目は「方法」、5文目と6文目は「相互作用」「銀イオン」という単語で連結されています。
キーワードの流れとしては、
高級不飽和脂肪酸 → 精製 → 方法 → 相互作用 → 銀イオン
のようになっています。
隣接する文に共通するキーワードがあり、複数のキーワードが流れるようにつながることによって段落が構成されているのが分かります。
キーワードの流れ方をチェックする
キーワードの流れ方は一つではなく、さまざまなパターンがあると思いますが、ここでは単純な「直列タイプ」と「並列を含むタイプ」を紹介します。
直列タイプ
直列タイプとは、上の2つの例文で示したように、キーワードが一直線に流れている場合です。「AはBである。BはCである。CはDである。・・・」という流れで論理を展開していき、どんな文書でもよく見られるパターンです。
並列を含むタイプ
段落のなかでキーワードが並列に配置されることもあります。上の2つ目の例文を改変してみました。
高級不飽和脂肪酸、特に、ドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタイン酸(EPA)は、網膜や脳の薬として有望である。高級不飽和脂肪酸は、イワシやカツオなどの魚の油に含まれている。しかしながら、薬用には高級不飽和脂肪酸を精製する必要があり、次の4つの方法が提案されている。真空蒸留とは、・・・する方法である。溶媒抽出では・・・。吸着クロマトグラフィーでは・・・。最後に超臨界流体クロマトグラフィーでは・・・。
1文目から3文目までが「高級不飽和脂肪酸」というキーワードで連結されているのは変わりませんが、4文目から7文目までは異なる精製方法について紹介しています。4つの精製方法は「方法」という共通のキーワードを持ち、並列関係にあると言えます。
このように、いくつかの方法や理由、可能性、具体例などを一つの段落内で挙げるときは、キーワードが流れるのではなく、同じキーワード(今回の例で言えば「方法」)を共有した複数の文が並列的に配置されることになります。
「並列を含むタイプ」と書いたのは、一つの段落が並列関係にある文だけで構成されていることは少なく、直列関係にある文も含まれることが多いからです。
まとめ
以上のように、一つの段落に文を書き並べていくときは、「キーワードの流れ」と「文同士の関係(直列関係・並列関係)」を意識します。直列であれ並列であれ、キーワードの流れが矢印を使って明確に描けるのであれば、その段落の文脈はきれいに(論理的に)構成されていると言えるでしょう。逆に、キーワードの流れがきれいに書けないような段落では、文脈が整っていません。その辺りを意識しながら、文章を書いたり自分が書いた文章をチェックしてみたりしましょう。慣れてくれば、意識していなくてもキーワードが流れる文脈が自然に書けるようになると思います。
この記事を書いた人
田中泰章 博士
Yasuaki Tanaka Ph.D.
プロフィール
環境問題や教育制度などについて広い視点から考える自然科学者。2008年に東京大学大学院で博士号(環境学)を取得した後、東京大学、琉球大学、米国オハイオ州立大学、ブルネイ大学など、国内外の大学で研究と教育に約15年間携わってきました。これまでに30報以上の学術論文を筆頭著者として執筆し、国際的な科学雑誌の査読者として多数の論文審査も行っています。
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