スピアマンの順位相関係数:使える場面と論文での書き方
前回の記事では、単回帰分析について解説しました。今回は、単回帰分析のノンパラメトリック版とも言える、スピアマンの順位相関(Spearman's rank correlation)について解説します。単回帰分析よりも多くの場面で使えるので、非常に便利な解析方法です。
どんなときに使える?
まず、スピアマンの順位相関がどういう場面で使えるのか、イメージできるようにしておきましょう。図1と図2の散布図を見てみてください。図1では、Xが増加するにつれてYが直線的に増加していることが分かります。それに対して図2では、Xが増加するとYも増加する傾向があるものの、直線的に増加しているわけではなさそうです。このように、直線的ではないけれど、目的変数が単調に増加(あるいは減少)しているように見えるときに、スピアマンの順位相関係数を使って、その増加(あるいは減少)が統計学的に有意かどうかを検証します。


単回帰分析より適用範囲が広い
直線を当てはめる単回帰分析では、回帰式の有意性を示すためには残差の正規性や等分散性など、いくつかの前提条件をクリアする必要があります。それに対してスピアマンの順位相関では、残差の正規性や等分散性などは求められないため、単回帰分析より広い範囲で利用することができます。
正規性や等分散性が求められないということは、数量データ(図1や図2のような数値データ)だけでなく、順序尺度でも利用できるということです。例えば、選択式アンケートの結果(順序尺度)は単回帰分析を実施できないことが多いので、スピアマンの順位相関係数を使ってデータの傾向を解析します。
解析結果の見方と記述方法
スピアマンの順位相関係数を使った検定結果は、単回帰分析に比べると非常にシンプルです。統計ソフトを使えば、相関係数とp値が出力されると思いますので、それらを見て有意性を判定します。
相関係数が正の値のときは、説明変数と目的変数に正の相関があることを示し、逆に負の値のときは、説明変数と目的変数に負の相関があることを示します。そして、一般的にはp値が0.05未満のとき、それらの相関が統計学的に有意と判定します。
図2の散布図を解析した結果、相関係数は0.86、p値は0.0001未満でしたので、次のように記述することができます。
(説明変数)と(目的変数)の間には、有意な正の相関が見られた。
解析結果の解釈(考察)
解析結果を解釈する方法は、単回帰分析の場合と同様です。有意な相関が見られたからといって、因果関係が示されたわけではありませんので、「(説明変数)が(目的変数)に影響を与えていることが分かった」というような記述は避けましょう。詳しくは単回帰分析の記事をご覧ください。
まとめ
スピアマンの順位相関係数を使った解析について、簡単に解説しました。
目的変数が数量データの場合、まずは単回帰分析を行ってみて、前提条件を満たさないときに順位相関を考えることになります。つまり、全体としては以下のような流れです。
- 散布図を描いて、説明変数と目的変数が直線関係にあるかどうかチェックする。
- 散布図に直線関係が見られる場合、単回帰分析を試みる(単回帰分析の前提条件を満たすならそのまま単回帰分析、満たさない場合はスピアマンの順位相関)。
- 散布図に直線関係が見られない場合、スピアマンの順位相関を試みる。
目的変数が順序尺度の場合は、最初からスピアマンの順位相関を考えれば良いでしょう。

この記事を書いた人
田中泰章 博士
Yasuaki Tanaka Ph.D.
プロフィール
環境問題や教育制度などについて広い視点から考える自然科学者。2008年に博士号(環境学)を取得した後、東京大学、琉球大学、米国オハイオ州立大学、ブルネイ大学など、国内外の大学で研究・教育に約15年間携わってきました。これまでに30報以上の学術論文を執筆し、国際的な科学雑誌の査読者として多数の論文審査も行っています。