論文の査読ポイントを研究者が分かりやすく解説:③新規性・重要性・倫理性
前回・前々回と、論文の主な査読ポイントについて解説しています。査読する側にとっても査読される側(論文の著者)にとっても参考になると思いますし、特にこれから論文を執筆・投稿しようと考えている方は、掲載の可否に関わる重要なことですのでぜひ参考にしてみてください。
記事としては、査読者側ではなく、著者側の立場から書いていきます。今回は研究の「新規性・重要性・倫理性」に関する査読ポイントをまとめてみました。
新規性は分かりやすく書かれているか
一般的に、査読付きの投稿論文では新規性が求められます。前回・前々回に取り上げた「正当性」や「論理性」に問題がなかったとしても、先行研究と全く同じ実験や調査を繰り返しただけでは、新規性がないと見なされてしまいます。
研究に新規性を持たせるにはどうすれば良いかというテーマについてはこちらの記事をご覧ください。
論文の序論では、研究の新規性を分かりやすく査読者に伝える必要があります。そのためには、まずは先行研究をしっかりとレビューし、そこで明らかになっていない点を指摘した上で、本研究の目的を設定する、という流れを序論の中で作ることが大切です。この流れがしっかりしていれば、研究の新規性は自然と明確になるので、あえて「本研究の新規性は・・・」などと書く必要はありません。
重要性は分かりやすく書かれているか
研究の重要性(意義)を指摘することも大切です。何のためにその研究をしたのか、その研究をしてどんな良いことを説明することによって、自分の研究の大切さを査読者にアピールします。
研究の重要性というのは様々な視点から考えることができて、例えば、学術的な意義、技術的な意義、社会的な意義、教育的な意義、倫理的な意義、歴史的な意義、国際的な意義などが挙げられます。学術雑誌に投稿するような論文では、学術的な意義を強調することはもちろん大切ですが、査読者は必ずしもその分野に精通している研究者ではなく、専門が多少異なる場合もよくあります。そういう査読者に対しては、狭い分野の中での学術的意義を述べるだけでなく、広い視点から研究の重要性をアピールすることが有効です。
つまり、研究の重要性を上手く伝えるためには、査読者の専門分野やその学術誌の読者層をイメージしながら、その人たちに合わせてアピールポイントを調整する必要があるということです。
倫理性に問題はないか
人や動物を対象とした研究の場合、事前に所定の倫理審査を受けておかなければならないことも多く、その場合は倫理審査を受けた旨を論文に記載します。倫理審査を受けなければならないかどうかは、所属する機関や投稿する学術誌によりますので事前に確認しておきましょう。
また、倫理審査に通っていても、論文上の表現に気を付けることも大切です。この点については、『心理学論文の書き方』(松井、2022)から引用しておきます。
論文を書く上で留意すべき原則は、執筆内容が研究に参加した人に不利益をもたらさないことと、読者を不快にしないことでしょう。
分かりやすい例を一つあげると、研究に参加した人に対する呼称が、変わってきました。以前は「被験者(subject)」と呼んでいましたが、この表現は研究者と研究参加者が対等でない印象を与えると指摘されています。代わりに用いられているのが「実験協力者」や「実験参加者(participant)」という呼称です。面接では「情報提供者(informant)」という呼び方もします。多くの研究者が「被験者」の呼称に対して許容的である現況(杉森他,2004)にありますが、本書では日本心理学会が公刊した『公益社団法人日本心理学会倫理規定』にそって、「研究参加者」や「被面接者」(面接調査の場合)や「実験参加者」(実験の場合)や「回答者」(調査の場合)などの記法を採ります。
論文執筆に関する研究参加者の不利益に関する留意点としては、個人情報やプライバシーが漏れないこと、研究参加者を見下したような表現を使わないこと、研究参加者の人権を損なうような記述を載せないことなどがあげられます。被面接者や実験参加者の同意を受けた上で研究を始めていること(インフォームドコンセント)なども、論文中に明記します。
松井(2022)『心理学論文の書き方』、河出書房新社
また、一般的に差別的と捉えられる用語や表現にも注意する必要があります。そういった用語・表現はたくさんあるので、ここでは割愛しますが、詳しく知りたい方は次のような書籍をご参照ください。
渡辺(2022)『これだけは知っておきたい 公用文の書き方・用字用語例集』、日本加除出版
礒崎(2024)『分かりやすい公用文の書き方』、ぎょうせい
まとめ
論文の査読ポイントとして、今回は「新規性・重要性・倫理性」についてまとめてみました。
- 新規性は分かりやすく書かれているか
- 重要性は分かりやすく書かれているか
- 倫理性に問題はないか
いずれも、どんな分野にも共通する重要な査読ポイントなので、論文を執筆・投稿するときはぜひチェックしてみてください。
<参考文献>
水島(2026)『科学を育む査読の技法』、羊土社
松井(2022)『心理学論文の書き方』、河出書房新社
渡辺(2022)『これだけは知っておきたい 公用文の書き方・用字用語例集』、日本加除出版
礒崎(2024)『分かりやすい公用文の書き方』、ぎょうせい

この記事を書いた人
田中泰章
Yasuaki Tanaka
プロフィール
自然の仕組みや環境問題、社会・教育制度などについて広い視点から考える自然科学者。2008年に東京大学大学院で博士号(環境学)を取得した後、東京大学、琉球大学、米国オハイオ州立大学、ブルネイ大学など、国内外の大学で研究と教育に約15年間携わってきました。これまでに40本以上の論文を出版し、国際的な科学雑誌の査読者として多数の論文審査も行っています。大学教員としては、これまでに40名以上の学生(学部・修士・博士)を研究指導し、若手研究者を育成してきました。専門は「人間と自然とのかかわり」で、人間活動が自然界に与える影響を生物学・化学・社会学などの複合的な視点から研究しています。
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