質的研究:日本で生まれ、多くの分野で活用され続けるKJ法

KJ法は、民族地理学者の川喜田二郎(Kawakita Jiro;KJ)氏によって創案された、問題解決や発想のための技法です。フィールドワークで収集した豊かなデータをまとめ上げるために開発されたものですが、現在では多くの研究分野で活用されるだけでなく、教育や企業においても応用されています。

また、KJ法は個人で取り組むこともできますし、複数の人で意見を述べあいながら発想を広げることができる点でも、優れた分析法と言えます。

一方、その取り組みやすさの反面、方法を誤解したまま「KJ法」として扱っている研究も散見されるようです。そのため、KJ法とは何であるのか、ここで改めて学んでみましょう。

KJ法とは

KJ法では、大きく以下のような作業手順を踏みます。

  • 収集したデータにラベルを付与する
  • 似たラベルをグループとしてまとめる
  • それらのグループ間の関係性が分かるように図式化する

(さらに文章化することもある)

なお、それぞれの手順と名称は、次の項目で述べるように、KJ法のバージョンによって少しずつ違います。

ラベルをグループとしてまとめていく際に重要な点として、既成の分類に当てはめるのではなく、「データそのものをして語らしめる」ことが挙げられます。すなわち、ラベルを丁寧に見比べて、データに基づいて概念を作り上げていくということです。

川喜田氏の親族が運営されている「株式会社川喜田研究所」のHPには、以下のように書かれています。

データに対する放恣な解釈や自己主張でもなく、既成の概念のアテハメでもなく、データそのものをして語らしめる。

KJ法を用いることで、データに即した、既成概念にとらわれない発想が期待できると言えます。

発展するKJ法

さて、一言で「KJ法」と言っても、実は数度の改変を経ており、年代によって図解化は必須ではない、シンボルマークを付与するなど、少し異なります。そのため、ご自身がKJ法を使って研究をする際には、どのバージョンを活用しているのか自覚することが大切ですし、論文にもそれを明記する必要があります。

以下に、KJ法の各バージョンの相違点を掲載します。

1967年版1986年版1997年版
紙切れ作りラベル作りラベル作り
グループ編成
・「一行見出し」作成
・見出しには「土の香り」を入れる
グループ編成
・「表札(旧「一行見出し」)」作成
・表札は各ラベルの「志」を集めて作成する
・手順の明確化
ラベル拡げ→ラベル集め→表札づくり
グループ編成
・1986年版を継承
・表札づくりの具体的方法として「核融合法」と「まぜあわせ方式」の提示
A型図解化
・空間配置→輪どり(リング)→輪どり間を記号で結ぶ
・図解化のみで分析終了も可能。(この場合は「KJ法A型」)
A型図解化
・空間配置→図解化
・図解化は、元ラベルの添付→島どり→島間の関連付け→シンボルマーク→表題と注記の記入。
・図解化のみで終了しない。
図解化
・1986年版を継承
B型文章化
・文章化は必須というわけではない。(文章化した場合、「KJ法AB型」)
B型叙述化
・図解と叙述化はセット
叙述化
・1986年版を継承
出典:田中(2011)を一部改変

このように見ますと、初版から1986年版の間に大幅なアップデートがあり、1997年はそこに微修正が加えられたことが分かります。以上の理由から、普段目にする論文では、1986年版以降の手法を採用している研究が多いように見受けられます。

KJ法を用いた研究に取り組むに当たって

ここでは、1986年版のKJ法の手順について解説していきます。もっとも、他の版で同じ手続きの箇所もありますので、ご参考にされてください。

①データを何度も読む

どの質的研究にも共通することですが、まずは逐語録や観察記録といった質的データそのものを熟読します。

②ラベルづくり

データの内容を、意味的なまとまりに着目して区切り、その内容を示すラベルをつけます。ラベルの書き方としては、名詞形ではない、動詞調の一文程度が推奨されています。また、それぞれのラベルには次の4つを注記します(川喜田・松沢・やまだ,2003)。

  • ラベルを作成した日時
  • ラベルを作成した場所
  • データの出所(例えばインタビューの逐語録であれば、発言者)
  • ラベルの作成者

元々のKJ法では名刺大のカードにラベルや注記を記入していましたが、現在では分析用のソフトウェアや、エクセル・ワードなどを使用することも多いです。

③グループ編成

内容的に類似したラベルを一つのグループにして、各グループの「表札」を作成します。この際、インタビュー・観察時の時間的流れや既存概念に囚われないよう、ラベルをバラバラに配置してから作業を始めます。見出しを文脈から外すことで、発想が広がることが期待されるからです。

グループ化した際の表札は各ラベルの「志」を集めたものとされています。「志」は川喜田氏の独特な表現ですが、それぞれのラベルが能動的に訴えてくる内容を理解するといった意味合いです。つまり、ラベルだけを表面的に解釈するのではなく、ラベルの元になっているデータやラベル同士のつながりなど、表札づくりの過程では深い洞察が求められるということです。

第一段階のグループ編成が終わった時点で、まだ数多くの表札があるようでしたら、それらの表札を、さらに上位のグループとしてまとめていきます(第二段階グループ編成)。これらの作業を何度か繰り返し、目安として10個以下のグループになったら終了します。

なお、いずれのグループにも属しそうにないラベルが出てくることがあります。これは「一匹狼」とされ、無理にグループに組み込む必要はありません。折に触れて、他のグループと見比べ続け、グループに編入することもあれば、最後まで一匹狼のままのこともあります。

④A型図解化

表札を作成したら、それぞれの表札を空間的に配置していきます。グループ編成はボトムアップ式に行いますが、図解化は逆に大局的な部分から行っていきます。最後のグループ編成で作成された表札を空間配置したら、そこに含まれる下位グループの表札やラベルを配置し、齟齬が出ないかを確認します。

表札同士の間の関連性を「島どり」(線で囲む)で表現し、さらに記号を使って島同士の関連を示します。その際、太い線や細い線、矢印などを使って、関係性の意味やその強さを表します。

いくつかの島ができたら、それぞれの島を示すシンボルマークを付けます。シンボルマークをつけておくことで、分析結果を人に説明する際に役立つからです(川喜多,2003)。シンボルマークには特段のルールはありませんので、ご自身の判断で、その島を表現するのにふさわしいマークを考案します。

最後に、図が示す内容を一行程度の文で書き、表題をつけます。

⑤B型叙述化

初版のKJ法では、叙述化(文章化)は必須ではありませんでしたが、1986年版以降は図解と叙述化はセットという扱いになりました。

文章化する際には、グループ間やラベル間の意味的な関係が明確なところからスタートします。その後、書き始めた表札に隣接している表札から少しずつ文章を展開していきます。

なお、文章を書いていくうちに、図で無理がある箇所に気づいたり、データの持つ深い意味を発見したりします。必要に応じて、図の修正やグループの再編、表札の名称変更を繰り返しながら全体をブラッシュアップしていきます。

おわりに

以上、KJ法の基本となる考え方や手順をご紹介しました。さらに学ぶためには、まず原本となる「発想法」や「続・発想法」を手に取ってみてください。KJ法の方法論だけでなく、研究へ取り組む姿勢やクリティカルな物事の考え方など、川喜田先生の薫陶を受けているような気持ちになれる点でもお勧めです。また、「株式会社川喜田研究所」ではKJ法の研修なども行っているので、サイトを確認してみるのも良いと思います。

KJ法は日本発祥で、さまざまな分野で使用されている有用な分析法です。ぜひご自身の研究や仕事に活用してみてください。

引用文献・データ

  • 株式会社川喜田研究所 https://kj-kawakita.co.jp/
  • 川喜田二郎(1967) 発想法 創造性開発のために 中央公論社
  • 川喜田二郎(1970) 続・発想法 KJ法の展開と応用 中央公論社
  • 川喜田二郎(1986) KJ法-混沌をして語らしめる 中央公論社
  • 川喜田二郎・松沢哲郎・やまだようこ(2003)KJ法の原点と核心を語る 質的心理学研究2(1) 6-28.
  • 田中博晃(2011) KJ法入門:質的データ分析法として KJ法を行う前に メソドロジー研究部会報告論集(1)17-29.
  • 田垣正晋(2019)KJ法 (サトウタツヤ・春日英朗・神崎真実 編(2019) ワードマップ 質的研究法マッピング 特徴をつかみ、活用するために 新曜社 pp.52-58.)
本田由美(修士)

この記事を書いた人

本田由美

Yumi Honda

プロフィール

人間関係や悩み・不安、生き方などを専門とする臨床心理学者(公認心理師・臨床心理士)。東京大学文学部(社会学)を卒業後、一般企業で経理・経営企画を担当。その後、東京大学大学院教育学研究科で臨床心理学を専攻して修士号(教育学)を取得しました。現在は、精神科クリニックで心理療法を担当しながら、大学と協働して臨床心理学の研究・論文執筆を行っています(筆頭著者として5本の論文を執筆、ほか共著多数)。心理学・社会学・教育学・経営学・統計学などの知見を活かしながら、これまで500人以上にカウンセリングしてきました。マインドフルネス講師、リラクゼーションセラピストとしても活動しています。

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