質的研究:M-GTA(修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)-研究者の立場や見地を生かして実践的知見を得る
M-GTAとは
M-GTA(Modified-Grounded Theory Approach:修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ)とは、インタビューなどで得られた質的データから、人の経験や行動のプロセスモデル(理論)を作成する質的研究の方法論です。社会学者の木下康仁氏が、GTA(Grounded Theory Approach)の方法論的な課題を踏まえて、発展的に考案しました(M-GTA研究会のサイトより)。看護や福祉、教育、心理など、人同士の相互作用(社会的相互作用)を扱う領域で使われることが多い手法です。
M-GTAはGTAをベースしているため、まずはGTAについて簡単に紹介します。
GTAとは
GTAとは、アメリカの社会学者であるGlaser と Straussが考案した質的研究法で、データに密着した分析(grounded- on dataの原則)から理論生成を目指します(Theory生成の志向性)。GTAにはいくつかの版がありますが(グレーザー&ストラウス版、グレーザー版、ストラウス版、ストラウス&コービン版、チャマーズ版、戈木クレイグヒル版など)、ここでは、M-GTAが参照しているオリジナル版(1996年のグレーザー&ストラウス版)について説明します。
GTAは、データを切片化する(データを小さな意味のまとまりで区切る)のが特徴で、質的研究でありながらも、客観性を帯びた分析の手続きを取ります。また、重要な概念として「継続的比較分析法」「理論的サンプリング」「理論的飽和化」があります(木下,2020)。
継続的比較分析法とは、類似性や対極性に着目しながら、コード(切片化したデータにラベル付けしたもの)を絶えず比較し続けることです。それが、理論の明確化・深化に資するとともに、後述の理論的サンプリングや理論的飽和化へもつながります。
理論的サンプリングとは、概念同士を比較し、関連性についてのアイデアが得られた段階で、それが実際のデータでもサポートされるかを確認するために、新たなデータを得ることを指します。継続的比較分析を行い、理論的サンプリングを繰り返した結果、新たなデータを追加しても新しい概念が生じない状態になったときに、理論的飽和化に至ったと判断します。
M-GTAとGTAの違い
さて、これらを踏まえてM-GTAがどういった意味で「修正版」なのか、どういう点にGTAとの異同があるのかを見ていきましょう。
まず、木下(2016)自身が「最も重視している」とした点は、「研究者を研究方法論化する」、あるいは、「研究者を社会関係にロックする」ことです。言い換えると、誰が・何を・何のために明らかにしようとして行う研究であるのか、研究結果をどのように実践活用していけるのかを徹底して意識することを意味しています(木下,2016)。すなわち、研究結果をいかに現場で応用し、検証していくのかを重視しているということです。オリジナル版GTAはデータ分析の客観性に特徴がありましたが、M-GTAは客観性よりも研究者の立場を明らかにし、その研究者が行った分析であることを前景化します。
手続き上の特徴としては、「分析テーマ」と「分析焦点者」を最初に決定するという点が挙げられます。分析テーマとは、「最終的に何のプロセスを明らかにしたいのか」を示す、分析上の問いです。分析テーマはインタビューガイドに反映されますが、データを収集した後でも、データ全体を詳しく確認していく過程で、必要に応じて修正していきます(木下,2016)。分析焦点者は、「誰の立場・経験に焦点を当てて分析するのか」を示し、調査対象を選ぶ際の基準となります。
例えば、以下のようなものが考えられます(架空のテーマです)。
分析テーマ:
出身地と異なる地域に就職した人が、その地域の人や歴史とかかわる中で、その地域に愛着を持つようになっていくプロセス
分析焦点者:
出身地と異なる地域に就職し、その地域に対して愛着を持つに至った人
また、M-GTAとGTAにおける分析手続き上の大きな違いとしては、M-GTAでは切片化しないということが挙げられます。これは、M-GTAが「プロセスを見る」ことを目指している点とも深く関連しており、分析焦点者の生きる文脈からデータを切り離さないこと、発言や行動の流れを途切れさせないことを重視するためです。そのため、M-GTAでは「コード」といった表現は使用せず、後述する「分析ワークシート」という分析用資料の中で、「具体例(ヴァリエーション)」として元データが記録されます。
M-GTAによる研究の流れ
M-GTAにて質的研究を行う際の流れについて解説していきます。なお、構想やインタビューガイドの作成、倫理的配慮などの詳細については、以前の記事(質的研究の基本:採択される論文を書くために知っておきたいこと)をご参照ください。
M-GTAは、主に以下のような流れで行います。
① 構想・先行研究レビュー
② 分析テーマと分析焦点者を決める
③ 倫理審査を受ける
④ フィールドエントリー/データ収集/理論的サンプリング
⑤ 分析:分析ワークシートを用いた概念生成
⑥ 分析:カテゴリー化
⑦ モデル化(結果図の作成)とストーリーラインの作成
それぞれについて詳しく説明していきます。
① 構想・先行研究レビュー
自分が明らかにしたい、そして明らかにすることが実践的にも学術的にも意義のあるプロセスを、先行研究を調べながら固めていきます。前述したように、M-GTAは最終的に「実践の現場に活用し、モデルを検証する」ことを志向しているため、研究の起点としては、研究者自身が実践現場で感じる疑問であることが多いですが、生活の中で抱いた疑問などでも構いません。
先行研究レビューの方法については、ほかの質的研究と同様ですので、詳細は以前の記事をご覧ください。
② 分析テーマと分析焦点者を決める
研究の目的を固め、リサーチクエスチョンを定めていく中で、分析テーマと分析焦点者も決めていきます。分析テーマは、データ収集後にブラッシュアップできるため、研究開始時には、ある程度暫定的なもので良いでしょう。
分析焦点者は、インタビューや観察の対象者となるため、実際にコンタクトを取れる対象にすることが大切です(研究のFeasibility:実施可能性にかかわります)。
③ 倫理審査を受ける
M-GTAにて研究を行う場合、主にインタビューでデータを収集することになるので、ほぼ確実に倫理審査が必要となります。倫理審査を受けない場合であっても、インタビューでは倫理的な配慮を行うことが必須です。倫理的配慮の詳細は、以前の記事をご参照ください。
④ フィールドエントリー/データ収集/理論的サンプリング
フィールドエントリーとは、研究の対象となる現場に入っていくことを指します。インタビューの場合は現場に入らないことも多いですが、観察の場合には必ず現場に入っていくことになります。また、インタビューであっても、フィールドに入った後に協力者を募るような方法もあります。フィールドエントリーについても、以前の記事をご参照ください。
理論的サンプリングについては、GTAとM-GTAで考え方が少し異なります。オリジナル版GTAでは、主にフィールドワークによるデータ収集をメインとしているため、データの収集と分析が並行して行われます。すなわち、分析をしながら、新しい概念が出てきたら、実際のデータで裏付けられるかどうかをフィールドですぐに観察し、確認することができます。
一方でM-GTAの場合は、主にインタビューデータを対象としており、分析はデータの収集後に行われるため、再度新しいデータを入手するのは容易ではありません。そのため、理論的サンプリングの方法としては、「新しい概念を頭に置いた状態で」再度手持ちのデータを確認することになります(木下,2020)。ただし、必要な場合は、協力者に再度インタビューを依頼する、あるいは新しいインタビュー協力者を募るといった方法も採られます。
⑤ 分析:分析ワークシートを用いた概念生成
M-GTAでは、まず、概念生成のための「分析ワークシート」を作成します。一つの概念に対して一つのシートを作成し(概念数=分析ワークシートの数)、各シートに概念名、定義、具体例(ヴァリエーション)、理論的メモを記入します。
| 概念名 | よそ者としての距離感 |
| 定義 | 就職によってその地域に住み始めたものの、自分はその土地の人間ではないという感覚を持ち、心理的な距離を感じている状態。 |
| 具体例 (ヴァリエーション) | 「当初は地域に住んでいるという感じはあまりなかったです。家と職場を往復しているだけで、自分はここに一時的にいるだけだと思っていました。(協力者A)」 「地元の人同士の会話に入れないんですよね。お祭りの話とか、昔の学校の話とか、自分には分からないことばかりで、やっぱり自分は外から来た人なんだなと思いました。(協力者B)」 「方言も最初は聞き取れないことがあって、会話の輪にはいるけど、ちゃんと入れていない感じがありました。(協力者C)」 |
| 理論的メモ | 地域への愛着形成の出発点として、「距離感」や「よそ者感」がある。単なる孤立感ではなく、地域の歴史・人間関係・言葉・行事に自分が接続できていない感覚を含む。愛着を持つに至るプロセスの初期状態として位置付けられる。 (対極例の検討)最初から地域になじんだ人はいるだろうか?どういう人だろうか。 |
M-GTAではデータを切片化しないため、発言のうち具体例としてどこに着目するのかは、語りの意味内容を踏まえて、研究者自身で判断していきます。そして、当該の語りを分析ワークシートの具体例(ヴァリエーション)の欄に貼り付けていきます(複数の具体例が集められることになります)。その後、具体例に書かれている内容を簡潔な文章でまとめることで、その概念の定義を作成します。そして、定義をさらに凝縮した言葉が概念名となります(木下,2016)。
この過程で、研究者自身の気づきや迷い、あるいは具体例の対極となる例などをメモするのが「理論的メモ」欄です。特に対極例について考えることが、分析の深みや妥当性に影響するので、具体例を探す際には対極例を意識します。
なお、「理論的メモ」は、一つの概念に対する分析ワークシートにも記入していきますが、別途、「分析全体に対する理論的メモのノート(シート)」も作成し、次のカテゴリー化につなげていきます。分析全体に対する理論的メモには、概念間の関係性や全体を通しての気づき・疑問を書いていきます。
⑥ 分析:カテゴリー化
概念が抽出されたら、それらを類似性に基づいてまとめていきます(カテゴリー化)。この際には、分析全体に対する理論的メモが有用となるでしょう。カテゴリー化では、必要に応じて、「カテゴリー」「サブカテゴリー」など多段階の抽象化も行います。
カテゴリー化は、次のモデル化(結果図の作成)と直結しているので、モデル化と往還しながらの作業となることが多いです。カテゴリーを作って、モデル化してみて、違和感があったら再度カテゴリーの編成に戻る…といった流れです。
⑦ モデル化(結果図の作成)とストーリーラインの作成
カテゴリー化がある程度進んできたところで、モデル化(結果図の作成)をします。結果図とは、カテゴリー間の関連性が視覚的に分かるように配置し、必要に応じて矢印などで関係を示したものです。
ストーリーラインとは、分析結果を概念とカテゴリーだけで簡潔に文章化したものです。ストーリーラインは結果図が完成してから作成しますが、ポイントは記述の順序です(木下,2016)。なぜならば、論文で分析結果を説明するときに、その順序や内容はほぼストーラインに沿って書いていくからです。
その他の留意点
④~⑦の手続きの中では、「継続的比較分析」および「理論的飽和化の判断」を何度も行います。木下(2016)は、繰り返しの継続的比較分析について、「それぞれのレベルで横方向での比較と、4つのレベル(生データ、概念生成、カテゴリー形成、明らかにしつつあるプロセス)の縦方向への比較の立体的組み合わせで進める。分析の大きな流れで言うと、この両方向での比較によりオープン化から収束化へと向かう」としています。
また、理論的飽和化の判断は、大きく二段階で行われます。まず、分析ワークシートを用いて、個々の概念が十分な具体例・類似例・対極例によって支えられているかを確認するもので、これは「小さな飽和化」と表現されます。二段階目としては、生成された概念やカテゴリーの関係を結果図とストーリーラインで表現した際に、それが分析テーマで設定したプロセスを説明できているのかを検討し、十分説明できると考えられた場合に、分析全体として理論的飽和に達したと判断されます。
まとめ
この記事では、M-GTAの特徴と分析の手順について、GTAと比較しながら解説しました。M-GTAを用いて研究を実施する際の注意点としては、分析テーマと分析焦点者を構想の段階で十分に検討することです。これらが曖昧だと、全体を通した分析の目的がぼやけてしまうからです。また、「研究する人間」であるご自身についても、内省的であることが大切です。
M-GTAは、考案者の木下氏によって、比較的手順が明確にされていることもあり、ヒューマンサービス分野においてかなり活用されている有用な研究法です。ぜひご自身の研究、そして実践に活用してみてください。
<参考文献>
- 木下康仁(2007)ライブ講義M-GTA 実践的質的研究法 修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチのすべて 弘文堂
- 木下康仁(2016) M-GTAの基本特性と分析方法 医療看護研究
- 木下康仁(2020) 定本M-GTA 実践の理論化をめざす質的研究方法論 医学書院
- M-GTA研究会 https://m-gta.jp/

この記事を書いた人
本田由美
Yumi Honda
プロフィール
人間関係の悩みや不安、生き方などを専門とする臨床心理学者(公認心理師・臨床心理士)。東京大学文学部(社会学)を卒業後、一般企業で経理・経営企画を担当。その後、東京大学大学院教育学研究科で臨床心理学を専攻して修士号(教育学)を取得しました。現在は、精神科クリニックで心理療法を担当しながら、大学と協働して臨床心理学の研究・論文執筆を行っています(これまでに15本以上の論文・訳本を出版)。心理学・社会学・教育学・経営学・統計学などの知見を活かしながら、これまで500人以上にカウンセリングしてきました。マインドフルネス講師、リラクゼーションセラピストとしても活動しています。
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